「だったら、だったら使い捨ててくれよ!!」
天龍単騎で巣への偵察を行えば、かなりの深さまで情報を得られるだろう。女神を積めば、最深部までいけるかもしれない。
だが死ぬ。天龍がこれまで歩んできた道が失われる。
「せめて最期に一花とでも?」
「どうせオレは強くなれねえ。旧型のポンコツでしかねえ」
可能性がないと確信していた。歯を強く噛みしめて、震える体で言葉を紡いでいる。諦めきっているんだ。
「だったら、ゴミみたいに使い捨ててくれ。オレを使うんならそうしてくれ」
「天龍だから慕う者も多くいるだろう」
「その慕う者達が死んじまうのを、そいつらを守れる自分じゃないって事実を、ずっと噛みしめろってのかよ…?」
仲間達に庇われて一人生き残るなんて、彼女の誇りが許せない。
まだそんな場面になってはいない。それでも可能性は高い。天龍を慕う駆逐艦が庇って、彼女一人が生き残る可能性はある。
想像したのか、ぶるりと天龍の身が震えた。
「オレは、オレは目の前で駆逐艦が死ぬのを許せねえ」
下を庇護し愛する在り方は美しい。天龍型の長女の自覚もあるのだろう。白露と同じで、姉としての大きな心が見えた。
「なのに守る力がねえんだ」
残酷な現実だ。彼女の性能は周りを鼓舞するだけ。
一騎当千の力量は得られない。仲間と共に戦う在り方は、守りたい心が許してくれない。
「特別な武装もない。性能だって低い。オレは、天龍は強くなれねえ」
それは違うと言うには、天龍を覆う絶望が深すぎる。
実際、無力さに折れかけていた時の俺にそんな言葉は届かなかった。自分が嫌いなんだ。その自分を擁護する他者も憎い。
「精々が燃費の良さ位か? それもまあ、オレである必要はねえ」
顔を上げて、困った様に笑いながら続ける。
「…アイツらはさ。強くなれるよ。オレが言っても信じられないかもしれねえけどさ」
誇らしげに胸を張って、愛する者達への言葉を紡ぐ。
「強くなれる」
それは純粋に未来を信じた言葉だった。ああそうだろう。駆逐艦も、他の軽巡洋艦も強くなれる。
「だから、オレは要らない。せめて死に様で」
そこに天龍がいなくてどうするんだ。自信満々に、ふてぶてしく笑う君がいなくちゃ始まらないだろう。
「こんなオレなんかを慕ってくれる皆が、死に対して本気で覚悟してほしい」
天龍が沈めば、他の面子は修羅になるだろう。死へ怯えて戦えなくなるかもしれない。それを許す男だと見抜かれている。
そうだ。観察眼もあるのだ。
「だから頼む。何でもするから、お願いだから」
天龍が深々と頭を下げた。ぽつりぽつりと雫が零れていく。隻眼から流れる涙は見せず。ただ真摯に頼み込んでいる。
何でもねえ。はっ! そこに勃起しないのだから、随分と俺も真面目な雰囲気になっているらしい。
「オレに死に場所をください。この命を燃やさせてください」
「……」
自分の無力さに嘆き、努力の限界を感じている。
静かすぎる程の慟哭だった。涙すら流して懇願する姿は、かつての俺を見せつけられている様だった。
だからこそ、かつて阿武姉が言ってくれた言葉を伝えたい。
「――死に逃げてんじゃねえ!」『――死ぬなんて絶対に言わないで!』