あ、あれ。なんだろう。なんだろうこの気持ち。
胸が温かくて、切なくて、嬉しくて。ああ、愛されてるなあ。
俺、響に愛されている。泣きそうで笑いたい。不思議な気持ちだった。
時間を忘れて撫でていく。愛おしい彼女の髪に触れさせてもらっているのだ。
優しく。絶対に傷つけないようにと。
手櫛をしても引っかかりはない。さらさら乙女。よく手入れされている。
確か暁や電が、彼女の髪をとかしたがるのだったか。よく響が話していた。後は阿武隈の影響かな。今はこの鎮守府にいないけど、手入れを怠れば怒りそうだ。
ふふふ。かつての思い出も、ここでの在り方も。どちらも愛おしい。
こうして触れ合っていて、匂いも分かる。仄かに甘い少女の香り。
興奮はなく。時間すら忘れそうな。ほっこりする感触だった。
川内の方を見てみると、なんだか緊張しているみたいだ。
すまない。よく分からんやり取りを見せつけられて、彼女も混乱しているだろう。
響らしくないぜ。まったく。考えなしに甘えてきたな。
まったくもう。好きだ。大好きだ。俺の相棒が可愛すぎる件について。
すっごい満たされている自分がいる。これが幸せなのだろう。
ふう。良いね。ありがとう。もうわけが分からん。良い人生だったなあ。
作者よ。分かっている。俺にこんな極楽はない。
ようく知っているぞ。お前の手口は知っているんだ。
日常は尊い。だが運命は運ばれてくるのだろう?
俺の物語の題名は、なんかこう。艦これカッコガチなのだろう?
ありがとう。貴方に感謝を。こんなにも愛おしい運命も紡がれたから――本気で殺すぞ。尋常じゃない程、俺は鍛え抜いた。艦娘の原理を明かし続けた。
良いよ。また地獄が来るのだ。慣れている。…だからこそ、ありがとうと言おう。
この愛おしさにありがとう。世界にありがとう。さあ夢は醒める時。
「提督」
「どうした?」
もじもじと川内がしている。可愛い。トイレかな?
言ったら響に殴られそうなので、無言で言葉を待つ。
「私も…その」
そう言って、彼女が頭を差し出してきた。
ふむ。考えよう。これは何の地獄だ? だ、騙されないぞ。絶対に騙されないからな!!
ふと、響と目が合った。
『川内さんに恥をかかせるの?』
アイコンタクト。今度のは俺の妄想ではなく。響の言葉だろう。
そっと、響が俺の手を離した。撫でる時間は終わり。次は川内が。
――何故俺の手が川内の髪に届く結末に至ったのだ!?
ば、馬鹿な。仮にも神と謳われた俺が、意識すらせずに完全な勝利へと導かれていた。
誰の策略だ。神か。他ならぬ創造神。作者の策略か!!
嘘だ!! ここまでめっちゃ地獄だった!! 絶対に騙されな…川内と目が合う。
仄かな期待と大きな不安に揺れる瞳。これガチなやつ。ガチ萌えなやつ。
めっちゃふざけてるけど、もうダメだ!! 状況がわけ分からん。
慣れ親しんだ響ならともかく、川内がこの流れにも乗ってくるとか。
俺の許容量を超えているのだが!
でも、待っているよ。待っているんだよ。
緊張で仄かに震えながら、もう俺もわけが分からないのだが。
川内が、俺の頭なでなでを待っているんだ!!
俺をなめるなよ作者。幾千幾万の絶望を越えて、いま此処にハートフル鎮守府を創ると誓ったのだ。かなり幸せすぎて、また心折られると思っていたけど。
貴様如きの運命操作で、折れるわけがないだろうが!! …さあ、いくぞ!!