「死んで楽になろうってか!? テメエを慕う者を守れねえから、全部から逃げて楽になりたいって!? ふざけてんじゃねえぞ!」『全部投げ出してでも生きたいって言ってよ!』
死にたがりだった俺へ、かつて阿武隈が投げかけた言葉。
そこに、俺が天龍へと抱く身勝手な激情を乗せて届けたい。
「お前に生きてほしいって思ってるんだぞ!!」『貴方と共に生きたいの!!』
他でもない天龍を慕っているんだ。それはお前だって知っているんじゃないのか。どれだけ愛されていると思う。
暁は無邪気に慕っていた。電は控えめに甘えている。雷は胸を張って誇りにしている。滅茶苦茶強くなれた響でさえ、天龍に敬意を示している。
それは力にではない。どこまでも愛する彼女の在り方に、皆救われていると知っている。
「無様な姿晒してまで死に損なってどうするよ!?」
天龍の叫び。自己侮蔑が故に、他者から受ける愛情を認められない。かつての阿武隈は、ただただ俺を抱きしめて許してくれた。
俺にそんな包容力はない。ただただ俺の思いをぶつけよう。
「命を投げ捨てるのが潔いわけがあるか!!」
たった一つしかない。絶対にいずれ終わる命だ。死にたくないと望んでも、殺してくれと望んでも終りは来る。
「全て燃やしきってこそ生き様、そうして世界に刻み込む事こそ死に様!!」
燃えるように涙を流す天龍の眼を、真っ直ぐに見つめて続ける。
「愛された責任を取れ! 今お前が此処で生きているんだ!!」
なんて理不尽な言葉だろうか。だが、俺やお前は自分の為にだけは生きられない。そこに焦点を置くと無力さで死にたくなる。
でもさ、やっぱり愛されちまったんだ。認めろ。
「無様に生き足掻け、強くなりたいって願え!!」
強くなるしかねえんだよ。己の役割を見出すしかねえんだ。
人生に意味なんてない。価値なんてない。どれだけ認められようが、軍神と称されようが、あらゆる価値は主観でしかない。
俺は俺が嫌いだ。俺の無力さが嫌いだ。無力と嘆く天龍を、一瞬で強く出来ない己が憎い。
だけどそれでも愛してくれる人がいる。かつて沈ませてしまったあの子も、俺が無力が故に守れなかった両親や妹も、いた。
だから駄目だ。折れる己が許せない。
「そうやってゲロぶちまけて泣きわめきながら、いつか終わる時まで足掻くしかねえんだよ!」
俺やお前みたく、才能がないのに強くありたい心が捨てられない愚か者は、そうやって挑むしかないんだ。
優しい言葉をかけるべきなのかもしれない。折れかけた彼女を、楽にしても良いのかもしれない。
だがそれは、俺が知っている天龍に対する侮辱だ。
『ふふ、怖いか? 世界水準超えだからな!』
なんて自慢げに笑える彼女があり得るのを、俺は知ってしまっている。
なら駄目だろう。それは駄目だろう。ああ違う。駄目ってのは我儘すぎる。ただ俺がそう在ってほしい。
力が全てじゃない。1番が全てじゃない。そこだけに価値を見出したってしょうがない。自分を認める事が、俺が見出した命の答え。
より凄いヤツがいる。あらゆる物事全てにおいて、自分が最高なんてありえない。だからこそ、足掻き悩みながら命の答えを見出すしかないんだ。