「オレは、オレは…!」
やはり俺の言葉だけでは納得出来ないか。それはそうだろう。天龍からすれば、俺はただの強者だ。事実、立場も違い過ぎる。
言ってしまえば、俺は強くなくても良いのだ。
それでも言葉を受けてくれる彼女に感謝をしたい。
だから、まあ。提督として出来る事をしよう。
「天龍」
「…なんだよ」
拗ねた様に、泣き出しそうな顔で見上げてきた。
彼女もまだ大人ではないのだ。俺が大人だとは言えないけど、それでも天龍よりは大人として振る舞わなければならない。
静かに、先程零した激情を見せず。穏やかに告げる。
「遠征に行ってこい。ああもちろん、君を慕う者達と共に」
暁、雷、電、龍田の編成になるだろう。響は…慕ってはいるが、今の天龍には酷すぎる相手だ。
天龍は気にしなくても、響が気にする。
「何一つ遮るモノなき海で、仲間と共に本音を語り合ってきなさい」
そう伝えると少しは落ち着いた様子だった。少しでも良いから、天龍の誇りを取り戻してきてほしい。
「メンバーは俺に言う必要は無い。資源を回収しなくて良い」
もう少しで14時位か? 海が静かで心地よさそうだ。散歩には適している。包み隠さず本音で語り合ってほしい。
どれだけ君が愛されているか知ってほしい。
「君達があるべき海で、大切な仲間達と語らってくれ」
「暴走されたら邪魔だもんな。鎖をつけて外に出すってか?」
皮肉げな顔だった。吐き捨てるような言葉だった。
微笑みながら目を見ていると、恥じ入るように呟く。
「分かってる。分かってるんだ」
天龍は自身の髪をかき回しながら、揺れる心を隠し切れていない。全部さらけ出したから、俺相手にも隠していない。
本音を見せてくれるのは、素直に嬉しいがね。さて。
「でもよぉ。オレは……ああくそっ!」
一度、彼女は大きく息を吐いた。武人としての顔も見せながら、小さな声で言葉を紡ぐ。
「悪かった。仲間達と海に出て、ちょっと頭冷やしてくる」
「ああ。気をつけていくんだぞ」
その言葉に返事をしないで彼女は出ていった。入った時とは別に、随分と静かに出ていったものだ。
「ふう」
人知れず溜息が漏れた。疲れているのは自覚している。
天龍の慟哭はよく分かる。俺もたった一度だけ、阿武姉にぶちまけた事がある。彼女から受け取った言葉を、全て伝えられたとは思えない。
「彼女ほどの抱擁力はない」
そも、阿武隈が俺を想ってくれた言葉なのだ。俺が天龍を思って出した言葉とは違う。重みも愛情の強さも違う。全てを許す力はない。
俺は天龍の無力さが酷く分かってしまう。死にたいと願う心も分かるんだ。
「はあ。遠征は駄目だったか」
不安だが止まるわけにもいかない。さて。応援願いは出した。後は状況が悪化しないのを祈る――祈りね。反吐が出る。
ふん。祈るばかりだ。
天龍が出ていってから数時間。響が執務室へと来てから十分程度の時間が経った時。焦燥と痛みの音を乗せて、執務室の扉が開いた。
「お願い…天龍ちゃんを助けて…!」
傷だらけの龍田だけが帰還したのは、祈ってから数時間の後だった。