いちゃいちゃ大好き提督日常   作:ぶちぶち

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意識の切り替えです

 傷だらけの龍田の姿に、一瞬で意識が戦場レベルまで引き上げられた。傍らにいた響の雰囲気も変わる。脳髄にしみ込んだ経験が魂を研ぎ澄ませる。

「龍田、状況の説明を」

「待った。状況を詳しく聞く必要は無い。龍田さん、ポイントは分かるよね?」

 

 俺の言葉を制止して、響が位置情報だけを求めていた。考えるまでもなく意図は理解出来た。濃密な時間を重ねてきたんだ。

 響は焦っている。仲間思いな彼女らしいとは思うがね。

 珍しい。仄かに震えすら感じた。心底から焦っているのだろう。

 

 冷静に戦略を立てようと思う俺が狂っているのだ。分かっているさ。

「鎮守府近海域の、A―2…! わ、私も」

 ボロボロの体を引きずってでもついていきそうだ。下手に止めれば大変な事になるだろうが、響が冷静に言葉を返した。

 

「だめ。龍田さんは高速修復材で体を治してからにして」

 足手まといとはもちろん言わない。響は冷静や冷徹に見えて、内に激情を燃やしている。仲間達を愛している。

 龍田の思いを汲みつつ、状況の最善を示していた。

 

 二人のやり取りに口は挟まない。響が本気で焦っているのならば、止めた方が不味い結果を生むのだろう。

 とはいえ何だ。少しばかり不安だ。危機的状況は久しぶりだ。幾ら響といえども、多少の劣化は生まれているだろう。

 

 じくりと胸が痛んだ。戦場に挑む前の痛みなんて、久しぶりの感覚だった。麻痺していた心が緩んでいる。さて。

「……今は、徐々に退却している筈よ」

 既に大破状態の彼女は、それでも強い想いで言葉を紡ぎきった。

 

 響は受けて小さく頷き。透明に響く彼女らしい声で、俺の目を真っ直ぐに見つめながら言ってくる。

「分かった。私が先行する」

 了承を得る前に動き出しそうだった。慌てて止める。

 

「待て。だとしても俺が響の指揮を「司令官が指揮をするのは後続部隊の方が良い」

 しっかりと戦力を把握しつつ、冷静な判断で戦いに向かうべきだ。そんな事は分かっている。分かっているんだ。

 

 ――轟沈した響を想像した。目眩がする。苛立ちが生まれる。心臓がうるさい。俺の手が届かない運命で死ぬ彼女が見えた。

 嫌だ。嫌だ。嫌なんだ。でも駄目だ。我儘だ。

「とりあえず、速度重視の艦装で援護に向かうよ。…信じて」

 

 ちくしょう。一瞬でも、天龍達と響の命を天秤にかけた俺は糞野郎だ。どちらも守り切ってこそ。何より響を信じてこそだろう。

 くすりと、響が本当に愛おしそうな微笑みを見せてくれた。…あれだけ痛んだ心臓が落ち着いていく。冷静さを取り戻していく。

 

「その躊躇いを私は」愛している。なんて言葉はなく。だけど、愛情の篭もった静かな微笑みを浮かべながら。

「艦娘として誇りに思う」

 これだけ言わせて俺が止まれるかよ。俺を誰だと思っていやがる。

 

 俺は軍神だ。人としての我欲は今必要ない。あれだけいちゃいちゃを楽しませてもらった。艦娘の愛おしさを見せてもらえた。

 ならば良し。心を燃やせ。本気でやるぞ。

「頼んだ」「了解、響、出撃する」

 

 ゲームより遙かに優しさを含んだ声で彼女は出撃した。すぐにでも艦装を変えて、天龍達がいるであろうポイントまで向かうのだろう。

 さて。俺もまた直ぐに準備を終えて、彼女達への応援を向かわせないといけない。

「龍田。すまないが治療の前に状況の説明を頼む」


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