緊急事態だが、満身創痍の龍田に語らせられない。応急処置だけ施して、茶を飲ませた。
一息はつけなくとも少しは力を取り戻せたか、彼女の語り口は心配を含んでいても、しっかりと状況を教えてくれた。
「成程」
いつもの元気がない天龍を心配して、暁が巣の調査を提案したと。
天龍はそれを止めたが、泣く子には勝てなかったらしい。涙を流すほど心配されていて、動いてしまったのは仕方ない。
実際、巣の広がりを確かめる為に調査する必要はあった。遠征について指定しなかったのは俺の責だ。こうした流れになったのも、自然と言える。
軍神だとか言われているけど、別に俺は神ではない。…何もかも見通せるのならば、と願わなかった夜もないのだがね。
「…どんな罰でも受けます。だから、お願いですから皆を助けてください」
深々と頭を下げて懇願している。いつもの俺であれば、さすがに胸が痛んだがね。今の俺はそんな顔もしていられない。
奮起してもらわなければ困るんだ。
「何でもね。尻叩きでもするか?」
「あ、えっと」
性を前に出した事で、怒りと嫌悪感から紅潮していた。それで良い。投げ捨てる己で誰かを守ろうなんて、傲慢が過ぎるぞ。
「ふん。簡単に相手へ全てを許すな」
まあ叩きたいですけどね! 良い音しそうですけどね!!
は~俺もなあ。龍田のでかくて形の良い尻を叩きてえな。
「自分の誇りで戦え。楽になろうとするんじゃない」
だが、これが俺の本音でもある。心を燃やせない戦士なんて、戦場には必要なかろうよ。
「それで龍田はどうしたいんだ?」
状況は厳しいのは事実だ。
敵艦隊、軽巡が三隻、駆逐が三隻だ。その内、軽巡の一体はflagship。俗に言う強化個体と来たか。
戦艦と空母がいなくて良かったと考えよう。最悪の事態は免れている。
不意打ちをくらった龍田が大破。龍田の撤退を庇いつつ、何とか凌ぐも撤退前に天龍が中破。電、雷、暁は無事だったが、今はどうなっているか分からないと。轟沈していなくても、仲間の負傷が重たい程、響も動きづらい。
「私は、全員で撤退したかった」
龍田の本音だ。静かに燃える炎が見えるようだった。
「そうすれば全員が撃沈していた。天龍の判断は間違いじゃない」
響が強く先行したがった理由も分かった。彼女は、大切な姉妹達の危機だと知っていたらしい。
力不足を悩む天龍を気遣って、自分が同行しなかった責任も感じていただろう。この一件を無事に片付けたら、ゆっくり話すのも良いかもしれない。
だが今は戦場だ。反吐が出る程に嫌いな、俺の居場所が待っている。
今から編成してポイントに着くまでには夜戦が始まる。夜戦か。ふっ。響に続いて関わったのは、元気いっぱいな彼女だったか。らしい流れと言っても良い。
「説明ご苦労。すぐに治療をしてきてくれ。出番が近く待っている」
「…私が同行して良いの?」
「龍田。君は皆を助けてと言っていた」
「え、ええ?」
理解していない。首を傾げている。可愛いなこいつめ。まあふぬけてもいられない。とっとと準備を済ませよう。
「天龍だけと言ったならば、俺は強く叱責しただろう」
「そんな…天龍ちゃんは大切ですけど。皆可愛いわ」
どう考えても、そんな風に怒れる龍田も可愛いんだよなあ。
「ああ。そう言ってくれる龍田がいかなくて、どうするよ」
必要のない無理はしない。だが、必要のある無理ならば俺はいくらでもしよう。どれだけ努力を重ねたと思っていやがる。
「――すぐに準備してくるわ。提督、ありがとう…!」