大破しボロボロになった体とは思えない速さで、彼女は入渠へと向かっていった。その背を見送ってから、一人残される。
「…ふう」一度息を吐いた。
全身を倦怠感が包み込んでいる。朝の天龍とのやり取りもだが、緊急事態が過ぎると思う。
「まあ緊急なんだから突然来るわな」
当たり前の言葉を呟く。吐いた言葉と共に気力まで零れそうだった。
天龍の無力感はさ。例えば今日の遠征とか、いつかの交流戦で彼女の在り方を見せつけたいと思っていた。俺は、どれだけ彼女が練度を上げたか知っている。
改二にこそ至っていないが、純粋な練度では神通すら及ばない。
それでも神通改二に勝てないのだから、残酷だがね。重ねた努力だって、結果を残せなければ無意味と天龍は言うのだ。
そのくせ、駆逐艦とかが努力していたら全力で認める。褒めるし、楽しそうに話せる。…まるで己を見ているが如く。
かつての俺も、いや今の俺も大差はないのだが。
力を、求めていた。全てを凌駕する力を欲していたいんだ。
「強さは大切だがね」
戦艦に勝てれば凄いのか? 空母を凌駕すれば凄いのか? 各々の役割がある。なんて言葉では止まれないのか。
訓練生時代の、響の言葉を思い出す。
『所詮、駆逐艦が戦艦に勝てる筈がないじゃないか』
あの頃の響は、目元に深い隈を作っていた。今にも死にそうな顔をしていた。事実、自傷癖にも似た発作があった位だ。
全力で向き合って、今此処にいる。
きっと極まった戦艦には、俺と響では一生勝てなかろう。無才の努力と天才の努力は重みが違う。土俵が違い過ぎる。
戦艦と空母を相手取った時の状況だって、極限まで集中し相手の練度を凌駕しただけだ。同程度の練度であれば敗北していた。
「さてはて」
逆に戦艦はずるいのか? 空母は卑怯なのか?
全部間違っている。と、俺は想う。ただそこに在るだけだ。
それを美しいと思う者がいれば、醜い、脆弱と断ずる者がいる。
「結局主観でしかない」
ただそれだけ。あるがまま、己であるしかない。だからこそ天龍は己を許せないんだ。とは分かっているのだけど。
在り方に口を出すなんて、傲慢だと知っているけど。
「はあ」溜息が零れた。
本当に侭ならん。俺を軍神と語った民衆に、解決策を聞きたい位だ。本当に俺が神だとするならば、どうして彼女達の無力さを一瞬で救えないのだろう。
「…弱音も吐いていられんか」
五月雨とは運命との在り方を、そうして天龍とは、かつて俺も抱いた無力感を受け止めた。実感したあの頃よりは、少しは俺も大人になれたはずだ。
強く、なれた筈だ。艦娘と共に戦える俺でありたい。
「畏れ多くも神の名を冠しているのだ」
はっ。偉そうに俺がよく語る。だけれど、そうだな。
時雨や五月雨には父になるといったからな。仕方あるまい。多くの艦娘が慕ってくれている。いちゃつきだって待っている。
萌えだって待っているんだ!! ようやく掴んだ萌え萌え!!
ぜ~ったいに守り切ってみせる。俺の全力で抗ってやる。天龍の無力感とかもそうだけど、純粋に考えて見ろ。
誰かが轟沈したら萌えなんて言っていられるか!
「ならばこの戦いは、俺の全てを賭けるに値する」呟いた。
弱気はここまで。弱音もここまでで良いだろう。
命を賭けるは艦娘だ。魂を賭けるは提督の在り方。戦争だ。戦争を始めようじゃないか。