この鎮守府にいる軽巡の全員を、動員出来るかと言われれば不可能と答えよう。今回の敵の面子では、潜水艦も編成出来ない。
神通、那珂、川内、龍田、天龍。その内、天龍が出撃しているのだ。
鎮守府を守る者はいる。緊急事態とは言え、全てを注ぐ事は出来ない。
最悪、別働隊が来る可能性もある。練度の高い神通と、同じく川内型の那珂は置いておきたい。
故に出撃メンバーは四名。龍田、川内、夕立、時雨。
合流した時の負傷次第で、流れを変える。最悪の場合は響と共に無理をして殲滅してみせよう。響が落ちていたら? ――やってやるさ。
覚悟は決まった。全体放送でメンバーを呼び出した。
そうして、執務室に集めた四名を改めてみる。
「つく頃には夜戦っしょ? 夜戦なら川内にお任せってね!」
「ああ。期待している」
川内は格好の良い楽しそうな笑みで、俺の不安を融かしてくれている。
彼女は緊急事態でも変わらない。仲間の命が軽いわけじゃない。ただ、動揺する弱さの怖さを知っているんだ。
この鎮守府では、響に次いで俺との付き合いが深い相手だ。彼女に期待すると同時に、俺もまた川内も守り切りたい。
「命に代えても守り切ってみせます」
「安心しろ。俺が死なせない。頼りになる仲間達もいるだろう」
龍田は張り詰めた表情で、不安に揺れる声と共に気合いを入れていた。柔和でどこか闇の孕んだ妖艶さはなく。
ただ姉妹を心底から心配し、そんな姉妹を心配してくれる者も守りたいと願っている。
「夕立が全部壊してあげる!」
「暴れすぎて倒れてくれるなよ」
いつも通りの楽しんだ笑顔で、夕立は在ってくれる。
天龍達が心配なのは揺れる眼から悟れた。川内ほどの静寂な心はない。それを超える程の心で、彼女はいつも通りを見せてくれていた。
「提督、大丈夫だよ」
「ありがとう。信頼しているぞ」
口数少なく。儚くとも力強い佇まいで時雨は微笑む。佐世保の時雨の名を背負い、強くなると誓った彼女の魂が、俺の心も奮い立たせてくれた。
「緊急性の高い状況が故に、今回は俺が全力で指揮を執る」
全員の表情が緊張を増した。川内と夕立だけは、楽しさも深みを増している。信頼が重たいぜ。応えたいもんだ。
「旗艦は川内。負担はかかるがいけるな?」
「もちろん! いけるか? なあんて聞いてたら怒ってたね!」
「良し。艦装の準備は既に済ませてあるな」
問いかけに全員が頷いた。準備は十二分。さて、後はどれだけの地獄が待っているからだ。
最悪の場合、響以外が轟沈している可能性もある。天龍が沈み、残された電達も沈んでいる。そうして響が中破以上の負傷で、容易に状況を覆せない。
…俺の悪い癖だな。最悪は、全員が轟沈している状態だ。
そんな想定すらしておこう。動揺は見せられない。本当に響が沈んでいたのならば、彼女の仇を取らないとならないんだ。
一度、深く息を吸いこんだ。腹から声を出しながら告げる。
「大切な仲間達に手を出した愚か者共を、蹂躙しにいくぞ!!」
「「「「はい!!」」」」