段々と日が落ちていく。夕焼け美しい海に立つ川内と、俺の魂が繋がっている。彼女が夕空を見上げている。雲一つない紅い空が美しい。
その川内を通し他の者達とも繋がる感覚。こればかりは言葉で説明しようのない。魂の感覚を確信している。
――川内の鼓動が聞こえた。夜だ。夜が来る。
魂の底から楽しさが弾けて、訪れる時をまだかまだかと待ち続けている。瞳が、瞳孔が段々と広がっていた。
夜の匂いが静けさと冷気を与えてくれる。
「いくぞ」『いこう!』
呼応するように、彼女の中の歯車を回すイメージで。引き上げるような力を纏わせた。
奥底にあるギアから、全身へと動力を回していく。海を進む速度が徐々に上がる。上がる。上がり続ける――軽巡の常識すら遙かに超えて!!
『…あはっ! さっすが提督だね』
ぎしぎしと軋む体を感じながら、それでも川内は誇らしげに行ってくれた。
まだまだ。もっと俺は高められる。彼女と共に高みへといける。
「川内。もっと魂を委ねてくれ」
『やらし~』
からかいの笑みを浮かべるのが見える様だった。視界共有しているので、残念ながらお目にかかれない。
「真面目にやりなさい」『は~い』
装甲を意識的に前方へと集中。空気を切り裂きながら、川内の肉体の負担を減らす。大気を引き裂く音が聞こえる。
そうして、川内から広がる他の者達への繋がりを利用。
『わわっ! み、皆と更に繋がってるね?』
強引に引っ張り上げる形で、この高速を維持し続ける。あたかも四名が一体の大きな獣になったかの如く。
もっとだ。もっとギアを上げろ。中途半端に止まる方が危険だ。
徐々に回した歯車に、ブレーキをかけながらアクセルをかければ粉砕する。
この高速を高め続けろ。それが、結果的に安全へと繋がってくれる。
……ああ、吐きそうだ。夕立との経験がなければ、意識が飛んでいたかもしれない。頭が痛む。背骨が痺れている。
『提督。私、夜が好き。この海が好き。だから大丈夫だよ。私は艦娘だからさ』
ゆらゆらと揺れ始めた意識が、繋がる彼女の声を受け取った。
『らしい所が見たいんでしょ?』
からかう言葉だった。いたずらに笑う川内が見えるようだった。
『夜戦に挑む私もらしさ。楽しく軽~いノリも好きだけどさ』
川内はよく笑う。緊張感溢れる戦場でも笑ってくれている。それは、決して軽く見ているからじゃない。周りを見ているんだ。
ぎちぎちに固まった体では、せっかくの夜戦を楽しめない。随分と彼女らしい答えに思える。そうして輝く彼女に、俺はどんな面を感じさせているのだろう?
『戦場で暴れるのも艦娘らしさだから、さ』
魂が繋がっている。響に次いで、この鎮守府で時間を共にした相手だ。俺の心も感じてくれているのかもしれない。
君達のらしさを愛させてくれ。と言った俺の在り方を、微笑み夜戦だと言ってくれたんだ。本当に格好良く、美しい子。
『私のらしさを楽しんでよ。それが提督のらしさでしょ』
「ありがとう」
『ふっふっふ。これでもお姉さんですから! …そろそろお話も難しい状況みたいね』
川内の電探により敵艦隊を発見。予想通り夜戦へと突入する流れだ。
そうして冷静に動こうと思っていた。視界の先に。ああ。
――中破した響の姿があった。