改めて川内との魂の接続を実感する。
『夜に融け込みましょう』
夜に昂ぶる心の在り方は、揺らめく夜海を想わせる。たゆたう魂、ああ、彼女はこの状況を心底から楽しんでいるのだ。
『ふふっ。相手は怯えてるね?』
敵艦隊を見据えると、多少の怯えを感じた。
『提督が怖かったのかな』
威圧を与えられたのは結構だがね。
それで、川内達の良さを殺していては意味がない。さて。冷静になった頭で戦おうじゃないか。
『ああ。良い。夜が来た。――相手に朝は訪れない』
夜の海を踊るように動く川内改二の在り方。気配が朧、ゆらゆらと蜃気楼みたいだ。そうして、戦闘が始まる。
まずは敵艦隊の砲撃。flagshipに引っ張られる形で、大した練度での砲撃が成されている。
迫り来る砲弾を肌で感じながら、緩やかに時が流れていく。
集中の極まった世界で、彼女の声が聞こえる。
『堪んないね』
酔いしれている。楽しんでいる。全てが静止しているようだ。
命中するまでの軌道を、ラインで視認していた。当たる。何もなければ川内の腹部に命中する筈。だが。
『でも残念』
砲弾はすり抜けて、海へと落下していった。
敵艦隊の動揺が伝わる。それはそうだろう。眼に見えて、観測している相手へ砲撃しているのに、どうしてかすり抜けていく。
『夜はそれじゃあ当たらない』
種も仕掛けもない。不可思議な力ではない。これは川内改二の特性と言える。
速いんじゃない。無駄が完全にないのとも違う。
類い希なる緩急が織り成す妙技。0地点からトップに至るまで、並幅が広いからこその幻惑する動きだ。
夜闇が認識をずらしている。意識が敵の想定した速度からずれて、捉え所なく動くから結果として認識から外れる。面白い。
響の無駄のなさとは違う。夕立の爆発力とも違う。これが川内の特性か。夜闇のカーテンに守られた、美しい彼女の在り方。
味方艦隊が彼女の動きに引っ張られて、敵艦隊からの砲撃を避けていく。
まるで相手がわざと外しているかの如き。異様な光景。
夕立の爆発力すら抱擁する。時雨と龍田は川内に合わせきって、夜闇の揺らぎに守れている。
『ふふ♪ 夜は良いねえ。夜はさ』
心地良い空間だ。本当に踊りを楽しんでいるみたいだ。
密集された砲撃は雨粒を思わせるのに、一撃も掠りすらせず躱しきった。
『今度は私達の番だよね? 皆、いくよ!』
そうして、今度はこちらの番だ。川内が砲撃体勢に入った。
さすがはflagshipとでも言うべきか。射線から外れるように動き始める。大した速度だ。偏差射撃が必要だがね。構わず川内の認識の侭に発射。
他の者達も、狙いから逸れての砲撃を実行した。
『その程度の動きで良いの?』
敵艦隊からすれば随分と間抜けな姿だ。完全に狙いを外している。砲撃の隙をついて、雷撃戦と考えていたかもしれない。
射線は避けている。相手は安心しきっていた。
敵艦隊総員に直撃する。砲撃の衝撃音が夜の海へ響いた。
『良いねえ! 皆の火力が上がってる。夕立が特に良いよ!』
楽しそうな声が聞こえた。ああ。俺も悪くない気分だ。
静寂に広がる砲撃と命中の音は、悪くない心地よさを感じられる。
『夜に響く衝撃音。やっぱり堪んないね!』
眼に見える砲弾を避けているのに、確かに命中する理不尽さ。真正面から不意を打たれた敵艦隊は中破している。大破は出来なかったか。狙いを研ぎ澄ませた一撃じゃないから、クリティカルまで持ち込めていない。
『物足りないって思ってるでしょ?』「さてね」
『生意気~! ま、じっくり楽しみましょう』
「油断はするなよ」
ないとは分かっていても、楽しみきっている彼女を見ると言ってしまう。
『もっちろん! 私が夜戦にいるのよ。完璧に決まってる』
彼女らしい答えだ。いやしかし。物足りなさね。
表面上はともかく。心を抉る砲撃だったのは間違いない。意識していない攻撃は芯へと響くものである。
『あら?』
敵艦隊が、動揺を隠せず無謀にも突撃してきた。
『無粋。もっと楽しみたかったけど』
「早く帰ってきてほしいのだが」
『提督が言うんじゃしょうがないわね。――おやすみなさい』
川内が静かに微笑みながら、味方艦隊の一斉掃射で全滅させた。