夜の海に静寂が広がっていく。敵艦隊の気配が完全に消えていた。
終わってみれば完全勝利であった。味方艦隊に傷一つついていない。
『提督、後は私達だけで大丈夫。どうしても危なくなったら呼ぶから』
とても優しい声色で気遣ってくれている。
俺の心を分かってくれている。平等にとは思っているがね。やはり。
『響を迎えてあげて。心配でしょ?』
ウィンクをする姿を見た気がした。
「…川内。お前は最高だ」
よく気が利くし、最高に安心感のある戦いだった。
『まあね! 夜戦だからね!!』
誇らしげな声であった。ちょっと調子に乗っている気もするけど、この勝利はそれだけの価値がある。
「後は頼んだ。どんな些細な事でも呼んでくれよ」『もっちろん!』
川内との繋がりを弱めて、意識を俺へと戻してきた。
目眩、吐き気が訪れるが落ち着いている。川内との相性も良かったのだろうが、前に夕立の指揮を執っていたからだ。体が指揮の感覚を思い出していた。
「さてと」
一度息を吐いた。そうして、入渠場へと足を運ぶ。
係の妖精に、響へ高速修復材を使う旨を伝えた。治療が済めば執務室まで来てほしいと、伝言もお願いする。
胸が軋む。他の皆に修復材を使わないのは、資源の節約だけではない。というか、節約するならば響にも使う必要は無い。
「りょうかいしました!」
ぴしりと敬礼をする妖精さんに違和感はあったが、深くは追求せず。重たい体を引きずって執務室まで戻ってきた。
川内の気づかいは最高だったが、港で響達を迎えられない。
響は傷だらけの姿を見せたくないだろう。ああ見えて、いやどう見えているかは俺次第だけど。彼女は誇り高い。
俺も、中破した響の姿は見たくない。抑えが利かなくなる。
「我ながら弱すぎるがね」
思いっきり抱きしめて、生きているのを確かめたくなる。あの小さな体に背負った全てを、温もりを感じさせてほしかった。
でも駄目だ。ただでさえ、響に頼りすぎているんだ。
訓練生時代はお互いに立場はなかった。前線にいた時も、立場としては軽かったさ。でも、今の俺は鎮守府をまとめる提督だ。
感情のままに振る舞えない。スケベで割と変態な自覚はある。あるからこそ、重たい感情を響にぶつけたくない。
死を命ずる場面は来るかもしれない。天龍達への応援でさえ迷った。確実に死ぬと分かる場面で、命を数量に置き換えられないのは駄目だ。
これまで散ってきた命に申し訳が立たない。
「はあ」
溜息をつくと控えめなノックの音が聞こえた。――響だ。