天龍、龍驤、響の三人を編成して、すぐに出撃した。今回は天龍の指揮を執っている。今の彼女ならば、二人の実力に折れない。
深海棲艦の巣へと入ると、あきらかに空気が変質している。
濃密な経験からくる直感で、中心へと進んでいく。
最も索敵能力が高い龍驤が先頭。後ろに天龍、更に後ろで響が走行していく。隙のない陣形であった。
天龍の目の前の彼女は鼻歌を歌っていた。余裕である。
振り返らないので見えないが、きっと響は苦笑しているのだろう。
そうして進み続けていくと――偵察機が敵艦隊を観測した。
緊張は…ない。必要なさ過ぎる。
『ほな。片付けよう!』
瞬時に龍驤が艦載機を展開する。震電改二、彗星、そうして彼女が最も頼りにする、零戦・潜水爆撃型。
特殊な艦載機に乗り込むは、熟練という言葉すら生温い歴戦の妖精達。
側にいる天龍の肌すら灼けるプレッシャーと共に、艦載機が放たれた。結果、行われるは圧倒的な蹂躙だ。
天龍の電探もまた敵艦隊を捕捉する。
駆逐艦が二体、軽巡が二体、戦艦が二体を観測した瞬間にロスト。
激しさすらなく。一切の抵抗を許さず。血と硝煙の、戦場の臭いすら感じさせず。ただただ一方的に蹂躙が完了した。
相変わらず凄まじい力だ。さすが龍驤である。
彼女達が敵艦隊のいたポイントを通過する頃には、静かな海が広がっているだけだった。
『ま、こんなもんやろ』
あっけらかんとした言葉だった。
龍驤らしいね。気取らず、過剰な誇りもなく。からからと笑う親しみやすさと、裏付けされた練度が美しい。
『これが空母の力か…』
呟きには驚愕が見て取れた。あえて問おう。
「折れたのか?」
『冗談! 胸はオレの方がでけえからな!!』
腹から声が出ている。良いね。そう言えるヤツは嫌いじゃないぜ。
『聞こえてるで~!』『聞こえてるよ』
なぜか響からも批難する声が聞こえてきた。まあ、響は良いだろう。抱きしめた時に柔らかかったし、問題ない。もーまんたいだ。
龍驤もな。マジで言うなら気にする必要は無いと思うがね。しかし彼女の持ちネタでもある。しょうがないね。
『はっはっは!!』
楽しそうに笑う彼女へ。少し真面目な話をしよう。
「龍驤は軽空母の一つの極みだ」
裏を返せば、軽空母の限界とも言える。練度の高さを考えてみると、やはり正規空母には敵わない。
「加賀や赤城とは違う。殲滅力だけで言えば、龍驤の方が劣っているだろう」
燃費の良さは龍驤の方が優れているがね。かつての天龍が求めた、圧倒的な力という意味では、絶対に空母は超えられない。
「だが、彼女の姿は弱く見えたか?」
『…堂々と力強く。支える幹が見えるみてえだ』
良い目をしている。一つの眼しかないからこそ、天龍は観察眼が育っているのだろうか。
「龍驤が見出した答えを見つめろとは言わない」
それは彼女だけの答えだ。俺と共に、最前線で無力さを噛みしめながら、血を吐きながら紡いだ強さなのだ。
天龍は天龍として、強くなるしかない。強くなれると信じている。
「だがまあ、少しでも糧になってくれればありがたいね」
『…ありがとう』
今度の言葉はからかいがなく。暖かい感謝に満ち溢れていた。さすがに照れるぜ。あんまり照れる空気は好きじゃないのだがね。
「それが俺の仕事だ」
『よっし! 礼は胸揉みだな! おっぱい大好きスケベ提督!!』
「今度その冗談を言ったらぶっ飛ばすからな!!」『はっはっは!!』
豪快に笑う天龍を連れながら、龍驤と響が巣を蹂躙していった。