「ま、創の大好きなおっぱいはないけどな~」
涙が出てきそうな俺を気遣って、変に自虐していた。いつもの冗談ならば良いが、今は、そういう風に誤魔化したくない。
こうまでしてもらって、ただ茶化して終わりたくはない。
「俺は龍驤が小さいと思った事はねえよ」
「ほ~ん」
胸の話だけではなく。いや、確かに胸は小さいかもしれない。でもそれが彼女の魅力ではない。そんな事で龍驤の輝きは曇らない。
「というか、女性としてじゃなくてさ」
龍驤を性的な目で見れた事はないぞ。胸が痛むし気持ち悪くなってしまう。好きだ。好きではある。心を許している。
からこそ、そういうんじゃないのだ。
「こう、なんていうか」
これを言葉にするならば、とてもくすぐったいけど。
「お袋的な?」
…ああ。今なんとなく、俺を父と呼ぶ艦娘達の気持ちがよく分かった。
こうまで受け入れてもらえると、自然とそう呼びたくなってしまうものなのだ。でっけえ生き方をしてやがるぜ。ありがたい。
「だっはっは! めっちゃデカイ子供が出来たやん」
「…迷惑か?」
豪快に笑い飛ばしてくれたけど、本当はどう思っているのだろう。こんなにも臆病な問いかけをする俺の頭を、雑に撫で回しながら。
「嬉しいに決まってるやろ!」
楽しそうに言ってくれた。俺も嬉しい。
「ああもう。可愛すぎるわ~」
更にぎゅ~っと抱きしめられる。胸を突き抜けて、骨の感触もあるけれど。不思議と心は更に柔らかく感じられた。
そうして、頭を撫でてくれながら彼女は更に踏み込む。
「で、結局響と何があったんよ」
先程は流した問いかけ。再度の言葉だから、俺もまた静かに説明した。
「ふうむ」
あの時の夜の話をすると、嬉しそうに言ってくれる。
「互いに腹をさらけ出したわけやな」
「…俺は弱かったら駄目だ。戦争なんだ。駄目だ」
こうして龍驤に甘えてるからさ。正直に心根を語れるんだ。まともに顔が見えていると、やはり格好つけてしまう。
「全部守り切る~なんて言い切るにはな。創の性格的に難しいやろ」
俺はそんなに強くない。楽観的には生きられない。
力が欲しい。誰よりも何よりも力が欲しい。
「そこにきての終戦の予兆やったと。気も抜けるわな」
響を幸せに出来ると言っても良いのだろうか? 俺もまた、彼女と愛し合い子を成したいと願っても良いのだろうか。
「ま、なるようにしかならんけど」
それは真理だ。
「いつも通りに楽しんだらええやん」
からからとからかうような声である。龍驤とは一緒にバカをやった機会も多い。漫才も楽しかった。
「響から聞いたで。仲良うやっとるんやろ」
どんな日々を聞いているのだろう。そうして、龍驤はどんな日々を送ったのだろう。
「そうやって楽しんでいけばええんやで。しかめっ面なんてらしくない」
「…龍驤は俺を知っているものな」
昔から心を見透かす人だった。本当に母親のような人だったんだ。
「誰より響が知っとるやろ」
ふと、冗談めかして本音を語りたくなった。
「俺は実はどスケベなんだ」