いちゃいちゃ大好き提督日常   作:ぶちぶち

24 / 322
ちょっとシリアスです

「て、提督っ、もう大丈夫ですよ!」

 川内の慌てた声で、ようやく場の空気が壊れた。

 響が呆れたように微笑んでいる。どこか見守るような笑みで、かなり照れくさい。

「そうか」

 

 俺のポーカーフェイスすげえ!! ま、まじで? 俺ってこの場面でも表情を取り繕っていられるの!?

 逆に言えば、この状況ですら表情が変わらない。冷血ですわ。

 

 めちゃくちゃ名残惜しかったが、川内の頭から手を離した。自惚れでなければ、彼女も少し残念そうだったような。さ、さて。どうしよう。どうすればいい。

 考えろ。凡人の俺が、激戦を皆と越えられたのは、考え抜いてきたからだ。

 転生者特有の異常な思考性能。常識に囚われるな。世界の理を知れ…!

 

 ――思いつかない! え、なんだって? みたいにとぼける事しかできない!!

 そしてこの状況では、難聴スキルはくその役にも立たない。どうする。

「…提督はさ」

 川内からの言葉。神妙な表情での言葉だ。ここで難聴スキルを使えば。

 

 最低である。無意味かつ普通に最低である。

「うん?」

 これは難聴ではない。純粋に言葉を促しただけだ。

「やりたい事をしてます?」

 

 川内の敬語がこそばゆい。そういう感じも好きだけど。ちょっと窮屈そうで心苦しい。

 それにしても、やりたい事ねえ。滅茶苦茶しているけども。

「質問の意図が分からん」

 おそらくだが、彼女の問いかけはそういう意味ではない。

  

 むしろ、この状況で皮肉気な問いかけをしていたら、そいつはもう俺の心を読んでいる。普通は拒絶するだろう。かつての仲間達ならば、まあアレだ。

 阿武隈は想像できない。龍驤は想像通りだろう。そうして響は、響はどうだろうな。なぜだか分からないが、愉快な事になるような気も。

 

 おっと。川内の質問から意識が逸れていた。

 昔を思い出させる問いかけだったのも、影響しているのかもしれない。

「その、この鎮守府に着任してからずっと働き続けて、食堂に来たのも初めてですよね」

 栄養補給はおにぎりとかで。心がガリガリと削れる労働だった。

 

 報われている。川内の反応とか、響のパンツとか。俺は幸せ者だ。

 ふっふっふ。まだまだとは思っているけど、今日は十分。満たされているぜ。

「後方に回されて、軍神と謳われたのに戦場から離されて」

 …まあ、大切な仲間とも殆ど別れて。同期の頼りになる者達は、最前線で頑張っている。

 

 罪悪感がないとは言い切れないし。裏方も最前線並に重要だからと、頑張ってはいるのだがね。ただもう疲れた。諦めにも似た感情が、ないとは言えないさ。

 そんな幸せを許したくなる位には、かつての戦いと仲間達が許してくれている。

「飼い殺し、じゃないですか」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。