「知っとるわ。ていうか、それも響の方が知っとる」
「え? マジで?」
思わず甘えるのを止める位に、衝撃的な事実だった。龍驤の顔を見つめると、いつも通りの楽しそうな笑顔で言う。
「だっはっは! 大体な」
からかう雰囲気だけど、どこか真面目な感情を乗せて。
「女の子だってスケベな子もいるんや。響もむっつりスケベかもしれん」
「響が? 想像も出来ない」
響も俺みたいに、はあはあと興奮していたりするのだろうか?
いや、あの冷静な彼女を見ていると、どうにも想像出来ないのだがね。よしんば俺の下心を知っていたとしても。
『ふむ。生理現象と同じだろう?』
なんて冷静に返す姿の方が想像しやすい。
『司令官。私のパンツを見るかい?』
と、ぎらついた眼で言う響は想像出来ない。もしそうだったら滅茶苦茶嬉しいけどさ! でもなあ。想像出来んよ。
「むっふっふ。女の勘が怪しいと睨んどる」
「そうか」
適当に流しておこう。本気にして響を傷つける方が嫌だ。
察したのか、つまらなさそうに、困った様に微笑んでいる。やはり俺の心は分かっているらしい。照れるね。
「スケベと言えば、龍驤に男はいないのか?」
普段なら絶対に聞かないが、この際だ。真面目に聞いてみるとしようじゃないか。
「いきなり何やねん」
「体型の事は本気で気にしているんだろう」
いつものネタにする空気じゃない。というか、二人きりの時はあまり話題に出さない。誰かを笑わせる為ならば別だが、割と真面目な雰囲気の時に、龍驤は胸を話題にしない。
「…珍しく素直に甘えたかと思えば、こうして提督としての面も見せるんやから」
彼女のトレードマークの帽子を深くかぶり直して。
「キミは良い男やね。まったく」
噛みしめる様な声で言ってくれた。まあ、提督業も長いからな。甘えてばかりもいられないさ。
「ま、創といっしょの悩みやな」
「俺と同じ?」
問いかけた龍驤の顔は、小柄な少女に似合わぬ重たい雰囲気を纏う。歴戦の古強者の表情。戦い続けたせいで、常在戦場の心が刻まれた顔。
「戦争が終わった後の事なんて考えてもなかった」
俺とは違い艦これの知識はない。当然の様に戦場で、当然の様に地獄しかなかった。
最前線でも日常の甘さはあったけど、死と隣り合わせだったのは間違いない。
「ずっと戦い続けて、その先で死ぬと思ってたんや」
色濃く死の気配を感じながら生きている。未だ最前線にいる彼女は、尚そうだったろう。
「それがまあ…なんや。平和? 的なあれやろ?」
どうなるのか。PTSDを煩った兵士みたいだ。不謹慎だろうか? …まだ、俺の悪夢は完全に消えていない。龍驤はどうだろうな。
「ほんまに分からん」
悲しさすら乗せられない。ただ困惑するだけしか出来ない。
「男がほしいかって言われても、正直うちは性欲がなくてな」
からからと笑っていているけど、割と深刻な悩みである。――誰かを愛する平穏が出来ないのだ。
「生々しい」
「はっはっは!」