かなり名残惜しくはあったが。
「すまん。踏み込みすぎたな」
そっと手を離す。
「あっ」
手を離した瞬間に龍田が目を見開き、寂しそうに俯いている。そうまで落ち込まれると、普通に俺も心が痛むぞ。
なんだろう。そんなに好かれる理由があったか?
まさかイケメン過ぎたのだろうか。そういう事か。
「ち、違うのよ。そうじゃないの」
…あ、うん。心を読んでの否定じゃないよね? 調子に乗るなって言外に伝えてないよね? そうだね。プロテインだね。
「どうした?」
冷静に言葉を促すと、必死な様子で彼女が言葉を紡ぐ。
「えっとね。その、天龍ちゃん達を助けに行ってくれたでしょ」
深い敬意と真っ直ぐな信頼を感じられた。あの時、俺が川内に助けられたみたいに、俺の迷いのなさで龍田も救われたのだろうか?
成程。恋愛的な雰囲気でないのは、そういう事か。心を通わせ合うのではなく。提督として見られているのか。
ある意味では新鮮な反応だった。父性としての側面も見つつ、素直に上官として慕われている。
「その時に川内さんからの指揮が伝わって」
まあ、旗艦を通して繋がっているから、龍田の心に届いても可笑しくはない。
「やっぱり、軍神さんだな~って思ったの」
そう嬉しそうに締めくくっていた。素直に愛らしいのだけど。
結局どういう事なんだ? ――我こそは軍神。踊り狂う暴風!! とでも言えば良いのか。
くっ。この右腕が疼く! 龍田の太ももに挟んでもらわないと、どうしようもないぜ! とでも言えば良いのか。
『…はい。分かりました』
みたいな感じで、今の彼女に言うと、本当に挟まれかねないので止めておきます。はい。挟まれてえよ!! そりゃあ挟まれてえよ!!
適度に肉が乗った太ももは柔らかく。そうしてハリがあるのだろうさ! あるのだろうさ!! でも違うじゃん。性欲だけじゃん。
そうじゃねえ、そうじゃねえだろう。それはいかんよ。
何がいかんって、俺は提督の強制力でエロい事はしたくないのだ。
偶然でないパンチラとか、それもう犯罪だから。俺のシマではノーカンだから。
いやしかし。この絶妙な雰囲気をどうしよう。心拍数がかなり上がっている。龍田はもじもじとしているし、俺も言葉が出てこない。
じ~っと龍田を見つめる。困った様に彼女が微笑んだ。
そうして、落ち着きながらも緊張した声で言う。
「ご、ごはんにしませんか?」
時刻はすっかり昼食時。そう言われると腹が減っているような。腹の音が鳴る。
「ふふふ。可愛い音ですね~」
「おっ、おう」
龍田が絞り出した提案に乗っかる形で、この窮地を抜け出した。