気絶した彼女が起きて、落ち着くまで数分。緑茶を入れて、隣合いながらのんびりとソファに座っている。
ぽつりと龍田から言葉が零れる。
「私、全部あずけて叱られるの初めてで」
泣き叫び気絶するまでに抑圧されていたのだ。余程、溜め込んでいたのだろう。吐き出す相手がいなかったというのは、なんとなく龍田らしいと思えた。
「幻滅しましたか?」
「いやそれはない」
迷いなく言葉を返すと、嬉しそうに微笑んでくれる。
別に嘘ではない。俺は変態だ。楽しくもなかったが、尻の感触を思い返すと中々に嬉しい。
「ただ君は女性だ。そうして俺は男なのでね」
だからこそ、こういうのはよくないと思う。軍神として応えたけど、人間としての俺は普通に変態である。
「あまりこういった罰はよろしくないと思うぞ」
「優しいですね~」
くすくすと笑っていた。どこか蠱惑的であり、少女にも見える笑みだった。龍田らしいね。
「他の提督は艦娘を抱く人も多いと聞きました」
そう。戦場に赴く艦娘が望み、応え提督も相手を抱く。そこに愛はないとは言わないけど、大体は死を覚悟した艦娘から誘うのが定番だ。
俺が艦娘と交わるのを避けるのは、そういう意味合いもある。女と男として、愛し合って至りたいのが本音であった。
まあ、そんな交わりすら未経験である事が、ちっぽけな童貞の誇りなのかもしれない。
「状況によりけりだ。俺も相思相愛ならば問題はなかろう」
「恋人との、その、ぷ、プレイですか~?」
顔を真っ赤にしてめっちゃ照れている。行動力はあるのに照れるとか。無敵かよ。
「おうとも。プレイだとも」
胸を張って堂々と答えると、またくすくすと笑いながら。
「無駄に男らしい返答ね」
さっぱりと言葉を返してくれた。すっかり緊張が解れていて、心の距離が近くなれた気がする。
「応えてくれる相手は響ちゃんかしら?」
「分からん」
本当に分からんのだ。俺はどうなっていくのだろう?
「うふふ。楽しみですね」
そうかもしれない。分からない方が楽しめる事は、意外と多いのだ。
「今日はありがとうございました」
改めて龍田は俺と向き合い、頭を下げてきた。
「生まれて初めて、ちゃんと泣けた気がします」
誇張ではない。あの涙は重みがあった。叫びがあった。
受け止められる俺だった事に感謝を、おそらく阿武隈の影響が大きいね。…いや、阿武隈に尻を叩かれた事はないがね。
「少しお尻がひりひりですけどね」
ふむ。せっかくだ。ここで冗談を飛ばして、龍田の感じを把握しておこうじゃないか。趣味ではないぞ。心苦しいのだがね。うきうき。
「望むならば尻を撫で回し、舐め回すが」
あえてエロい笑顔で彼女を見つめて、手をわきわきと動かしてみた。
くすりと龍田が微笑んだ。首を傾げて、じんわりと怖い雰囲気を滲ませながら――実に彼女らしい優しく甘い声で。
「おさわりは禁止されてます~その手、落ちても知りませんよ?」
かつて聞いたボイスよりも遙かに柔らかく。親しみと親愛の篭もった言葉で返ってきた。
噛みしめる様に俺も笑った。笑えた。これでいい。これがいい。
「ん。龍田らしい。良い解答だ」
「お父さんみたいですね~」
静かに笑う彼女と共に、残りの一日を平穏に過ごしていった。