「もちろん資材は大切です。なかったら戦えないし、提督が後ろに控えていてくれるから、前線が安心しているのも分かります」
失敗出来る余裕は、思っているよりも遙かに心を緩ませる。
死線の緊張は尋常じゃなく。僅かにでも緩まるならば、その方が良いに決まっている。
無論だが、最前線も手は抜いていなかろう。
俺がいるから死んでも良い。とはなっていない。ただそう。…或いは神に祈るように。少しだけ重さをあずけて、自分の力を発揮しているのだ。
ソレを、皆の信頼を軽いと思ったことはないけど。いい加減慣れてきた。
ただ俺の考えを知っているわけもない。夜戦大好きな彼女からすれば、自由に生きる彼女からすれば、軍神の在り方は、どうにも窮屈に見えるのだろう。
ようく俺の心を知ったら、キレるかもしれないな。もしくは大爆笑。
一度、大きく息を吐き出して。川内として真っ直ぐに。
「私はさ。好きな事をしてる。大好きな夜の海にいるだけで、私の魂は満たされてる」
此処の近海はとても平和だ。夜戦も早々ない。ただ純粋に彼女は夜が好きなのだ。
俺も夜は嫌いじゃない。静けさは好きだ。激しさに良い思い出はない。
騒がしいのも好きだがね。宴会とか。酒を飲むと記憶が飛ぶので、ここ最近は呑めていないなあ。皆と心が通じ合ったら、飲み会も良い。ふふふ。服も心も緩むのが酒だ。
楽しみだなあ。今時点では夢物語ですらないがね!!
「…まあ、こんな自由が許されてるのは、最前線で通用しない艦種だからってのもあるけど」
軽巡洋艦と駆逐艦の脆さ。練度を上げなければ、最前線で運用するのは難しく。
練度を上げるためには、戦わなければならない矛盾。
ソレは、優しく強い者達の多い世界で、そうして大破撤退の安全なんてない世界で、中々に残酷な理だった。もうちょっと優しい世界で在れ。と何度も思ったが。
ブラック鎮守府がないだけ、随分とマシなのかも。俺も毒されているか。
俺が軍学校に入学した時よりは、随分と方針は見直されてはいる。
昔は、戦艦と正規空母の轟沈を防ぐ盾として、運用されていた時もあった。
人の盾。決して、兵器の効率運用などではなく。それを命じた提督達もまた、優しすぎて心を病んでいく。
地獄だ。くそったれ。今の平穏に最上級の感謝を。
だからこそ遠征などの資材管理で、今皆は輝いているんだ。素晴らしい。愛おしい。
適材適所なだけである。役割分担なのだ。
前線で通用しない。そう考えるのは仕方ないけど、落ち込まれたら俺も悲しい。
練度を極限まで上げ続ければ、一時的に逆転する事も可能だけどね。同じ事を戦艦がしたら、という話。
「とにかく。提督は何がしたいの?」