ふふんと楽しげに笑ってから、一転。静かな微笑みを浮かべて、長女らしい大人びた雰囲気で続けるのだ。
「あの子はね。私たちの中でも一番我慢強いの」
一人取り残された彼女の最期を知っている。
初対面の時も、駆逐艦の無力さを嘆きつつも、周りに当たらない様に我慢していた。ぐっと歯を食いしばって、目元に深い隈を作っていた。
眠れず。耐えて、耐えて、耐え抜いて。
そんな響の生き方と共に俺は戦い続けてきたんだ。
「わがままだって上手く言えないし」
他の誰かを優先してしまう。己の感情の侭には動けない。
かといって、冷たいわけじゃない。内に秘める想いは誰よりも熱い。だからこそ響は辛いのかもしれない。
「甘え下手なんだから」
そうだな。よく実感している。阿武隈にこそ弱みを見せていたが、俺含む他の面子には見せたがらなかった。
抱え込んで、潰れるまで頑張っていたんだ。
そんな所までそっくりだと、かつて阿武隈は笑っていた。
「司令官がしっかりとね。リードしてあげてほしいのよ」
正直に言えば難しい。女性として向き合った時には、経験の薄さが出てしまう。怖いんだ。分からない。
「…響は傷ついているのか?」
暁が怒っていたのだから、きっとそうなのだろう。響が俺との接近を喜んでいたのならば、暁だって祝福してくれた筈だ。
「隠してるけど、暁にはお見通しよ」
困った様に笑っていた。深く傷ついているわけでもないのか。
女心は難しい。正直に言えば分からなかった。
「こう、いっぱい心を持て余してるの」
俺もそうだ。俺の場合は情欲も強いのだがね。そういう話ではないのだろうか?
しかし、龍驤曰く響もエロいらしい。それは…その、素直に嬉しい。嬉しいけれども。まさか真正面から話題には出せない。
一般的には、女性の方が貞淑な可能性が高い。
いやでも。性欲は六倍強いらしいし。
「響はまだまだ子供っぽいのに、なのに甘えられてないのよ」
ふざけた事を考えている場合ではなかった。うむ。
「だから司令官。お願いだから、あの子をしっかりと甘えさせてあげて」
「――任せてくれ」
ずっと一緒に戦い続けた相棒。何より大事な女性を甘えさせられずに、何が大和男児よ。甘え合うのって最高だと思います!
あのクールな声質で。
『創、だっこ!』
とか言われてみろ。それだけで絶頂するね!
「暁と約束出来る?」
「ああ」
真剣な表情で見つめる暁へと、真っ直ぐ眼を向けて頷いた。
「約束よ!」
快活に、花開く笑顔で認めてくれた。今度からは義姉さんと呼ぼうか。うむ。怒られそうである。
「……あと一週間は待ってあげて」
今まではほぼ毎日会っていたのに、か。分かっている。変わろうとしているんだ。
「そしたら、落ち着いてられると思うわ」
今日一日で随分と暁の印象が変わった。こんなにも凜々しい少女だっただろうか。
…天龍もそうだけども。やはり、俺が知っていたキャラとは違う。大人として落ち着いた面もある。素晴らしいね。
「それまでは私の大事な妹たちとも話してあげてね」
「よろしく頼むよ」
一週間か。改・白露型の面々と交流するのも良かろう。
さてはてどうしたものかね。
「今日はありがと」
そう言って彼女がソファから立ち上がった。もう夜も深まっている。
川内が元気になる時間帯だ。少しだけ眠たそうだった。
「こちらこそ」
「ふふ。司令官もお礼は言えるのね。偉いわ」
にこりと優しい笑みを浮かべてから、暁は言葉を続けた。
「それじゃあおやすみなさい」「おやすみ」