昼飯を食べて、腹休めの休憩時間が流れていく。彼女の淹れてくれた緑茶を味わいつつ、ソファに隣り合って座っていた。
あ~癒やされる。ただ黙って座っているだけで、海風から癒やしを感じていた。雰囲気が良いのだ。柔らかく落ち着く相手。
そうしてのんびりと過ごしていると、彼女が口を開く。
「お疲れの様子ですね?」
「む?」
仄かな心配を感じさせる声だった。何故だろうか?
疑問の表情の俺へと、説明するように彼女は続ける。
「白露から提督の事は聞いてます」
「ああ。こびりついた疲れが取れていないのは事実だ」
ここでの生活で随分と楽にはなっている。
不眠も改善されて、幻覚は最早感じない。手の震えや吐き気も収まっている。
鬱の感じも大分マシになっていた。自殺すら出来ない無気力感は、薄れているのだ。…それだけ抜き取ると重病人みたいだな。
大したことじゃない。俺は、生きている。
「少しでも癒やせれば良いのですが」
「癒やし?」
何をされるまでもなく。海風には癒やされているぞ。
大体男というものは、美人が隣にいるだけで幸せなのだ。生産効率も大幅上昇なのである。そういう意味では海風は完璧。
なにせ気づかい上手。何を言わなくても支えてくれている。俺に響という最愛の相棒がいなければ、やばかった。
理性が飛んで甘えていただろう。搾乳プレイである。
『大きい赤ちゃんですね』
と、慈母の微笑みを見せられたらもう大変であった。たいへんではない。へんたいであった。
「ええ。さあ海風にお任せください」
「うむ」
ふふんと得意げな海風萌え。お姉ちゃん属性を宿しながら、こうして可愛げなある彼女。最高だね。イエスだね。
「白露に出来る事ならば海風にも出来ますので」
「そうか?」
しかしここで張り合う。そうじゃない。白露と海風の良さは別物だ。白露は動的で活発な感じ。海風は真逆の良さ。
包容力があるという点では共通しているけど、その発揮の仕方は別物である。逆に言えば、海風の方が行動力は低い。
こうして比べ合うから駄目なのだ。むう。
「ふふ。彼女と過ごした流れを、海風が更に深くいたしますよ!」
意気揚々と断言していた。いやあ。あの流れを再現しつつ、更に深めるとか。本当に搾乳プレイになりかねない。
「そ、そうか。だが別に張り合う必要は」
残念だが止めなければ。
「…海風が信頼出来ませんか?」
とても、とても悲しそうに俯いている。凜とした雰囲気は消えて、今にも泣き出しそうな少女がそこにいた。ああもう。
姉属性と妹属性を有するとは卑怯なり!!
滅茶苦茶恥ずかしいが仕方あるまい。正直に言おう。
「まず白露は俺の頭を抱える形で抱きしめくれたな」
「ふむふむ――えっ?」
驚いてこちらを見ている。落ち込んだ雰囲気は消えていた。
「どうした?」
あえて俺の羞恥心は見せず。堂々と問いかけた。
「い、いえ。提督も冗談を言うのですね」
指で自身の髪をいじりながら、顔を仄かに赤めさせて言った。
可愛いけどセクハラしている気分だ。悪くない。落ち着け。変態である。
「別に冗談ではない。嘘だと思うのならば彼女に確認すると良い」
「そうですか…」
さすがにそれは出来なさそうだ。良かった。
残念であるが、あの時は緊急事態だったのだ。距離感が近い子が多くて麻痺しているが、抱擁は普通しない。
海外でもあるまいし…海外艦が来たら、相当刺激的なのだろうな。思いを馳せていると。
困ったように海風が固まっている。仕方ない。
「無理をする必要は「無理などではありません」
ソファから立ち上がり。彼女が両腕を広げて、俺の目の前に佇んでいる。
思わず豊満な胸へと目が集中しかけて、必死に海風の眼を見た。潤んでいる。今にも泣きそうだけど、それは嫌悪だけでなく。
「ど、どうぞ」
受け入れる想いも感じられた。