海風の小さく柔らかな手が、俺の頭を撫でていく。優しく梳いているような手つきだ。素直に心地良い。堪らない程の安らぎを抱いていた。
しかも、胸に包まれているのは変わらない。最近の俺は幸福すぎないか? 揺り戻しで地獄が来るのだろうか。
いやほんと、包まれているとしか言えない。すさまじい抱擁力。母性。まず香りが良い。体温が良い。布越しに感じる柔らかさが良い。
全てが良い。もうやばい。語彙力が喪失する。
受け入れる心が広すぎて、興奮も超えて気絶しそうだった。
やっぱり、海風の谷間からめっちゃ良い香りするし。汗の匂いだと思うけど、心が揺さぶられる。
理性が融けそうになる。興奮しない心とは裏腹に、泣き出しそうな切なさすら覚えた。
「提督の髪はふわふわですね」
愛おしげな声だ。淫らな情欲は感じられない。ふと、少し冷静さが戻ってきた。年下の子へこんなに甘えて良いのだろうか。
「手触りが良いです」
優しい言葉だ。どうしてこんなに甘えさせてくれるのか。それは、はたして白露への対抗心だけなのだろうか。
自惚れたくなる。まあ、あれだ。海風は優しいから、きっと俺が我儘を言っても、困ったように受け入れてくれるのだろう。
いやいや。この状況自体は彼女から提案したのだ。嬉しいけれども、俺が強く渇望したわけじゃない。かなり嬉しいけどな!
海風の体温が伝わりきって、融け合っているようだ。
互いに言葉を発せず。ただ時が流れていく。
心地良い微睡みの時間。頭を撫でる手は止まらず。優しさと柔らかさで心底まで癒やされていた。
ぽつりと海風が言葉を発する。
「…良い子、良い子なんて。えへへ」
赤ちゃんになりゅう~!! …落ち着け!! 危なかった。突然爆弾発言をするんじゃない。理性が飛んで搾乳を所望する所だった。
ふう。やれやれだ。油断出来ないぜ。変態だ。
緊張で固くなった俺の体を察したのか、少し拗ねた様に言う。
「提督からも力を入れてください」
落ち着け。そういうことではない。というか、本当に誘ってないよね? 愛がない関係は不味いと思います。
いやね。快楽に素直なギャルとか大好きだし。
清楚系と思って実は、なんて展開も大好物だけど。そういうのは二次元だから良いのだ。絶対に後悔する。
この人が良い。この人じゃなきゃ駄目。それ位思えているならば、別れが来ても後悔はないけども。って考えすぎだ。
海風はただ望んでいるだけ。こうして抱きしめ合うのは、それこそ時雨や白露とも経験していたじゃないか。
「嫌じゃないのか?」
「尊敬、してます。恥ずかしいこと言わせないで」
顔が見えないけど、きっと今の海風は真っ赤なのだろう。
「可愛い事を言うじゃないか」
思わず漏れた俺の言葉へ。彼女は呟くように。
「…いじわるな人」