「ですが」「良いんだ」
落ち着かせるように、真っ直ぐ彼女の目を見つめた。綺麗な瞳だ。俺と違う。濁りなんて無い眼差し。今は不安で揺れている。
自信満々とまでは言わないけど、少しは胸を張ってほしい。
「ほら、海風も座ってくれ」
「…失礼します」
海風が隣に座ってくれた。ぽすんと沈む感じ。ハリのある尻が思われる。変態だ。今の海風だと本当に尻を撫でられそうなので、絶対に言わない。
いやしかし。思っていたより海風が揺れている。どうしてそこまで気になるかね? どう考えても海風は美少女だ。
戦場なんかの厳しい場所でなければ、俺はあまり比べる事はしたくない。だけれども、あえて言うのであれば。
海風は他の子達より遙かに良い子だと思っている。それは見た目の愛らしさだけじゃないぞ。こうして実際に過ごしてみて、本当に癒やされているんだ。
無理に性的な流れも良くないし、暴走されるのは嫌だ。彼女の魂に傷はつけたくないんだ。もっと自分を大事にしてくれ。
大事にしているモノを委ね合うから、互いの価値と己の価値を認め合えるから、交わりは楽しいのだろう。
「…海風は、やはり駄目なのでしょうか」
今にも消え出しそうな声だった。
「違う」
不安げに俯いて泣き出しそうだった。焦りと不安で揺れていた。…これまでの駆逐艦の不遇と、一番艦として無理をしていただろう白露への心配。
どうにも出来ない己への無力感。苛立ち、は海風の気質から少なそうだ。白露への嫉妬とも少し違ったらしい。
あくまでも、己へ抱く劣等感が全てか。俺と白露型の触れあいを、少しは知っていたのだろう。
相手にされないと魅力がないと、思ってしまう。その程度には今の海風は追い詰められていたのかもしれない。
ううむ。どうしたものだろうか?
「その、白露ほどではありませんが」
ぎしりとソファを鳴らして、誘うように彼女が四つん這いで迫ってきた。豊満な巨乳が強調される。緊張と不安で紅潮した顔が、どこか淡い劣情を覚えさせた。どくんと、俺の心臓が鳴る。
「や、止めろ」
童貞にはきつすぎるでしょ!! 清楚系の彼女がそういう事したら、破壊力がありすぎるんだって!!
お、落ち着け。落ち着くのだ。かつての俺とは違う。可愛い子耐性がなかった頃とは違うんだ。
無防備な川内の脚を思い出せ。響のパンツを想像しろ。白露型の艦娘達との触れあいを脳内に呼び起こせ。
まずここで一度達し――てない!! 俺は童貞。童貞だからこそ、誇り高く落ち着くのだ。
「…申し訳ございません」
がっつり落ち込んでいるぞ! ぐ、ぬぬ。でもなあ。やっぱり駄目だよ。ここで変に応える方が海風に失礼だ。
何より白露にも失礼だ。どうしたものかね。
「「……」」
気まずい空気が流れる中。
「提督、お邪魔するよ~!」
と言って、ぶち壊すように川内が入室してきた。
四つん這いで迫る海風の姿。ついでに言えば、胸元が緩みエロい感じの衣装。入ってきた彼女からは、どう考えても情事の始まりに見える。
一瞬、完全に空気が止まった。そうしてにんまりと笑って。
「お邪魔しました~」