いちゃいちゃ大好き提督日常   作:ぶちぶち

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山風さんとの
仄かに滲む心の淀みです


 海風や川内との一日が終わり。翌日。春がそろそろ終わりそうな、とても暖かな朝が始まっている。

 今日も今日とて改白露型との交流だ。今日は誰が魅力を見せてくれるのだろう?

 執務室で一人待っていると。

 

「ふ、ぁあ」

 思わず欠伸が漏れてしまった。春が終り、夏の近づきを感じる。体から疲れが出ているのだ。慢性疲労は取れきっていないか。

 数年間蓄積されて、この鎮守府でも最初は無理をしたからだ。

 

「…此処に来るまでも療養していたんだがな」

 ひとり言を紡ぐ。誰に聞かせるでもない。己と、作者にでも届けている言葉だ。愚かしい。ああ仄かに頭痛もする。

 大切な仲間の一人と、死別したのも夏だったか。

 

「いかんなあ」

 またひとり言が漏れた。そうしていないと心が駄目になりそうだった。

 頭を振り、誰かが来るのを待っていると、本当に控えめなノックの音が聞こえた。

「どうぞ」

 

 入室を促すと、これまた弱々しい音を立てて扉が開く。そろり、そろりと入ってきた少女。

 癖のある緑色の長髪。同じく、翡翠に似た美しい眼差し。不安げに揺れる瞳は、庇護欲をかきたてられる。

 

 病的な程に真っ白な肌が、腋だけ出たセーラ服と相性良く。魅力を更に引き出していた。とても小柄な美少女だ。儚く、少しだけ感じる淀みと自己嫌悪の心が、彼女の危うい魅力を出しているのだろう。

 白露型八番艦・山風が今日俺と共に過ごしてくれる。

 

「…よろしく」

 名乗りも挨拶もなく。ぽつりと言葉を零した。俺も意識的に微笑んで返す。

「よろしく頼む」

「ん」

 

 そうして、ほぼほぼ初対面のコンタクトが終り。一日が始まった。とりあえず仕事をしようかと、執務机に向かっていると。

「提督、ちょっと椅子を引いて」

「うん?」

 

 言われるがままに椅子を引いた。机と俺の体に距離が出来た。これでは仕事が出来ないのだが、どうしたのだろう?

 とことこ山風が近づいてきた。特に迷いも警戒心もなしに、自然と俺の腿へと座った。

 

 ふむ――えっ!? い、いやいやいや。どうなっている?

 春雨よりも更に小さな体だ。尻は大きめで張りがある。心配になる程軽い体は今にも壊れそうで、強く抱きしめたくなる儚さがあった。

 落ち着け。まず状況を把握しよう。

 

 山風が、俺の上に座っている。わけがわからない。ついに俺の転生者特典でも目覚めたか。ニコポなのか。微笑みで落としたのかね。

 そんなわけがあるかよ。落ち着け。

「山風」

 

「…なに?」

 見上げるように彼女が俺の目を見てくる。ゆらゆらと不安げな瞳は、だからこそ危うい美しさがあった。

 守りたくなる子だ。ううむ。しかし。

 

「どうして俺の腿の上に座る」

 初対面から距離が近い子ではなかろうよ。白露から、山風との付き合いに関しては色々と言われている。顔が怖かった頃は、絶対に笑うなと厳命を受けていた位だ。

 

 うむ。思い返してみると、どれほど俺の笑顔は怖かったのかね。それは置いておくとして、今は山風の事だ。

「重かった…?」

 不安げな瞳が色濃くなっている。少し泣きそうだ。

 

「いや軽い位だがね」

 心配になるレベルで軽い。小柄でかなり細身だからか、山風は本当に軽かった。それでいて尻が大きいのだ。すごい子である。

 でも、不思議とむらむらこない。リラックスしていた。

 

 これだけ無防備かつ無邪気だと、汚したくならないのだろう。娘を見ている気分である。ふふふ。本当に父性が目覚めている。

 余生を送っている気分だ。

 こんな言葉が出てくる辺り、俺の心の欠片は、まだ戦場に残っているのだろう。

 

「…海風姉や白露姉が、よくだっこしてくれて」

 その光景が目に浮かぶようだ。白露は構い過ぎてうざがられて、それでも山風は喜んでいる。海風は優しく抱擁して、山風は眠っている。

 

 良い光景だと思う。いやしかし。まさか、その二人と同じ位好かれているとは思えない。

「嬉しいって、言われたから…提督も嬉しい?」

 どうやら山風は、俺を喜ばせようとしてくれているようだ。

 

「ああ。ありがたいぞ」

 理由は分からないが嬉しい。微笑んで感謝の心を伝えると。

「ん。よかった」

 応える様に彼女も微笑んでくれた。


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