ぼんやりと、山風をだっこしながら座っていると。俺の腹が音を鳴らした。くすりと優しい微笑みを浮かべて、彼女は言う。
「ごはんにしよっか」
「ならば俺が」
立ち上がろうとする俺を押さえて、山風が立ち上がった。
「今日はあたしがお世話するの」
「ふふ、ならばよろしく頼む」
「頼まれたよ」
嬉しそうに微笑んで山風が出ていった。おそらく、昼飯を用意してくれるのだろう。一人残された執務室で、息を吐いた。
「ふう」
淀みが出ている自覚はある。どうにも疲れている。
今日、山風との時間を過ごすのは危ないかもしれない。奥底に溜ったモノが、どろどろと心を満たしている。
泣き出しそうな気分だった。笑わせる。
「…パパになる、ってか」
山風の病的な可愛さから、多くの提督達は父性を感じていたのだったか。そんな小さく愛らしい子へ、弱さを見せている俺は赤子か?
…香りが、山風の仄かに甘い匂いが残っている。
自己嫌悪と侮蔑の心が落ち着く。彼女は俺を同じと言っていた。
「ならばそれを嫌うのは、山風を嫌うのと同じ」
今日は弱さから目を逸らす事も出来ない。そんな一日の予感がする。
そうしてぼんやり待っていると、山風が戻ってきた。
「はい。おにぎりと大根の漬け物。いっしょに食べよ」
彼女が料理してくれたのだろう。少々歪ながらも、大したおにぎりがあった。
「「いただきます」」
ソファーに横並びで座り、二人で静かに食べ進めていく。
ふと山風を見ると、くちびるの端に。
「ご飯粒がついているぞ」
そっと指で取って食べる。
「…ありがと」
恥ずかしそうに微笑んでいた。可愛い。語彙力が欠如し始めていた。
「提督って、白露姉と海風姉に似てるね」
「そうか?」
俺は白露ほどの抱擁力はない。海風ほどの柔らかさもない。
「ん。あったかい」
それでも山風は笑ってくれた。他の艦娘達も甘えてくれている。
「ならば良いが」
そうだな。それで良いんだ。
「おいしい?」
不安そうに問いかけてきた。失敗しない料理であるが、やはり感想が気になるのだろう。
「美味い」
形は歪だけどしっかりとおにぎりだ。中の梅干しも味わい深い。
「ふふ。そっか」
簡単な俺の感想へ、本当に嬉しそうな笑みを返してくれた。
「「ごちそうさま」」
食べ終えて、さあどうしようかという時。
「お昼寝しよ」
彼女から素敵な提案をしてくれた。断りづらいのだがね。まだ今日は仕事を進めていない。大分先のモノまで片付けているけど、働けないわけじゃない。
「だが「今日一日は良いでしょ…」
きゅっと山風が俺の右手を握る。幼子のような、真っ直ぐで素直な心が伝わった。
「目、ちょっと暗くなってる。しっかりと休んだ方が良いよ」
そうしてじ~っと俺の目を見てくるのだ。翡翠の如き瞳は、嘘偽りを許さない透明さがあった。
「そうでもないさ」
「そうでもある。あたしと寝よ」
「ふ、むう」
随分と強引な言葉だ。それでいて今にも泣き出しそうだった。こういう淀んだ気分の時に、あんまり甘い時間は過ごせないんだよな。
特に山風は、俺の淀みと共感してしまう。俺が耐えきれないんだ。
「…頭、撫でたげる。白露姉直伝だよ。こんな機会、もう一度なんてないよ」
本当に泣き出しそうだ。俺のちっぽけなプライドで、泣かせるわけにもいかないか。
「分かった。分かったから、世話になるとも」
「ん」