山風に手を引かれる形で、俺の自室へと入った。そのままベッドに二人で寝転がっている。
向かい合い、抱きしめ合いながら寝ている。約束通り彼女の小さな手のひらが、俺の頭を愛おしそうに撫でていた。
見方によっては、母親に甘える子供に見えるかもしれない。
…とんだ笑い話だ。随分と図体の大きい男の子もいたものだろう。客観視すると死にたくなるのに、拒絶するほどの強さは、今の俺には残っていなかった。
目を開けると、あんまりにも純粋な山風の瞳。
仄かに甘い匂いがする。俺を抱きしめる細い腕が愛おしい。可愛いというよりは、少し美人の方が強いかも知れない。
なにせ抱き合っている。彼女の、小柄な割りには大きな胸も俺の胸へと当たっていた。暖かさと柔らかさは、今の俺を興奮させない。
受け入れられている。ただ安堵と安らぎがここにあった。
「あったかいね」
かけ布団は使わず。厚めのタオルケットだけで十分な気温だった。相手の体温があるおかげなのだろう。
「もうすぐ夏が来る。やがて秋が来て、冬になるのだろう」
夏は苦手だ。暑いからもあるけど、色んな思い出がある。
深海棲艦共もなぜか夏の方が活発になる。冬は大人しいのだがね。あいつらは冬眠でもするのだろうか?
「今年は、夏祭りがあるみたい」
ああ。完全に平和を取り戻せたのは、最近のことだったか。
時期によっては夏祭りがない年もあったはずだ。祭りは好きだ。ただこの世界の祭りは経験した事もない。楽しみである。
「山風も行くのか?」
「あたしは良いよ。うるさいのは嫌い」
少し面倒くさそうに顔を歪めての、らしい言葉だ。思わず微笑むと、彼女も微笑み返して言ってくれる。
「でも、お祭りは好きかな」
「意外だな」
俺の言葉へ困った様に笑いながら、彼女は更に続ける。
「なんだろう。あったかくなるの」
素敵な言葉だ。
「江風も元気になるからね。…手を繋いでの祭りは、嫌いじゃないかな」
嫌いじゃないと言っているけど、とても愛おしそうな笑みだった。愛情を感じる言葉だ。
「提督は?」
小首を傾げながらの愛らしい問いかけ。
「俺は、どうだろうな」
思わず素直に言葉を返していた。前世の俺ならば、夏イベントが楽しかったけれども。
「今までそういう経験もなかった」
この世界に来てからは、幼少期は勉学に励んでいた。家族を深海共に殺されて、艦これ世界と気付いてからはなあ。努力を、していた。
間違っても軍学校に落ちないようにと、必死に努力していた。
そこからは響と出会い、学び鍛えて鎮守府に着任したんだったか。
そうして戦い抜いて、デカイ巣を潰し此処に至る。ううむ。我ながらつまらない人生だ。遊びが少ない。
「ああ。だけど、皆が楽しいのは見ていて嬉しい」
愛おしい人々が楽しむ姿は、俺の心も満たしてくれる。
何より浴衣姿が楽しみだ。いつも二次元で見ていた姿を、これでもかと見られるのである。ふふふ。弱ったテンションでなければ、暴走する位に楽しみだ。
「そっか。なら大丈夫だよ」
撫でる手を止めて、強く俺を抱きしめながら。
「皆明るい子が多いから、きっと大丈夫」