「――だけど怖いよなあ」
ああそうだ。隠さない。隠せない。今俺は、完全に人としての言葉を吐き出している。弱さを見抜く幼い瞳へ。真っ直ぐに言葉を続ける。
「何が怖いって、戦うことだけじゃないんだ」
死ぬのは怖いさ。山風が抱える重みは、想像すら許されない。それでも彼女は臆病だと言っていた。間違いではない。艦娘としては珍しい。
だけど、当然だろう。普通に生きられるんだぞ。
山風は子供だ。それも小さな女の子だ。平和に生きていられた筈なんだ。
怖くないわけがないだろう。大人の男が、指揮を執っているだけの俺ですら、戦いの場は怖い。痛みは怖い。だけど、同族だと言ってくれた彼女の奥底は。
きっと自分だけでなく。愛してくれる皆へも向いている。
「…弱っちい自分が戦ってしまうことで、もっと悪くなるんじゃないかって」
響との出会いから俺の艦これは始まった。必死に努力してきた。仲間も増えていった。愛されていた。愛している。
だから頑張れた。いつか来る日常を求めて、必死に戦い続けてきた。
軍神と呼ばれ、常人離れした境地にたどり着けた。
…裏側に、ちっぽけで臆病者な俺の心を残して。格好つけて、不可能なんかないと抗い続けてきたんだ。
その弱さを見抜かれている。どろりと滲み出る疲労と、夏の訪れが俺の弱さを隠させない。
言葉は続く。震えた声で続いていく。
「死ぬのが怖いのに、終わるのが怖いのに」
怖いよ。なんだあの化け物共ふざけんな。人型の癖に滅茶苦茶怖いんだよ。砲撃が怖い。雷撃が怖い。艦載機なんてやってられない。
痛み。皆が受けた苦痛が分かるのに、そこだけは共感してやれず。死のリスクがない安全地帯で、たた指揮だけをとる恐怖。
戦いたくなんてない。誰かに押しつけて休んでしまいたい。逃げたい。怖い。怖い。
それでも、逃げる方が怖かったから。転生者などという運命を押しつけられたから。戦った。努力をした。
「それを押し殺して戦ったのに、何も残せないのが一番怖い」
俺だけが生き残ってしまうのも怖い。死ぬのも怖い。痛いのは嫌だ。
「必死になるのが怖い。愛するのが怖い。愛されるのが怖い」
だって、完全にやりきったから。全力をかけて尚も届かなかったら、もうどうしようもないじゃないか。
軍神として格好つけた言葉は言ってきたよ。
だからって、この弱い俺が完全に消えたわけじゃねえ。ちっぽけでダサくて、ただスケベなだけの弱い人間が、なくなってねえ。
どろどろと言葉が続く。山風は真っ直ぐに俺の目を見ていた。
その瞳に映る姿はなんと滑稽なのだろう。今にも泣き出しそうな男がいる。
「なにもかもを捨てて、忘れて、投げ出したくなる」
死ぬ事すら辛いからさ。全て投げ出して呆けていたい。何も考えないで、いつかくる終りを待ち続けているんだ。
「綺麗なモノなんて知らなければ良かった。生きているから、怖い」
きっとその先は酷く楽だろう。何も考えずに死を待ち続けられたら、どれほど楽だろう。
それでも、と望む俺がいる。それでもを望む俺がいるんだ。
「でもさ。俺は、ほしいんだ」
「…何が?」
小さな呟き。俺の弱さを否定せず。寄り添い、それでもと彼女自身が問いかけている。ずっと見ないようにしてきた弱さへ。
人として、俺の欲望を伝えよう。
「全て」
諦められない。諦めきれない。――だって艦娘って可愛いから!!
皆、皆個性的で、優しくて可愛くて愛おしい。弱さも、強さも全部萌えてしまう! そりゃあ男なら頑張っちゃう。
「愛したい、愛されたい。日常が好きだ」
春夏秋冬があるんだぜ。しかもそこで美少女がきゃっきゃうふふしてるんだぜ。平和ってそんなに愛おしいんだよ。
じゃあ萌えるしかねえじゃん。そりゃあしょうがない。
「こんな自分を愛してくれている。大切な相棒がいる」
響~! 俺だ結婚してくれ!! …こんな幼子に甘えきった姿を見たら、幻滅されそうな気がするけどさ。
俺は響が好きだ。軍神として必要にする相棒であり。人としてエロく見てしまう女の子。
「共に生きたい者達がいる」
恋仲として強く望むのは響だけど、他の者達だって大事だ。ここで紡がれた縁の先が、良い結末を迎えることを望んでいる。
「だから怖いけど。怖いから戦うんだ」
結局、臆病な俺もその答えを紡いでいる。