この鎮守府に建設された港。この鎮守府は遠征の為にある場所だ。
漁を目的とした船はなく。ただゆらゆらと海が佇んでいた。のんびりと風が流れていく。そんな場所だ。
「ここで皆が出撃するのか」
思えば、艦娘の出撃を見送った事がなかった。前の鎮守府ではそんな暇もなかったし、此処では皆と仲良くなっていなかった。
完全に終戦が決まる前に、一度は見送ってみたいものだ。海へ進んでいく彼女達も絶対美しい。
「良い色だな」
深海棲艦の領域が広がっていると、淀み黒色に海は変わる。
それが祓われると、美しい色を取り戻すのだ。不思議と魚も戻っている。なんなら前より綺麗になっているくらいだ。
…深海棲艦は世界の自浄効果だと、言った研究者もいたらしい。あながち間違いではないのかも知れない。
そうしてのんびりと彼女を待っていれば、それほど経たない内に港へ来てくれて。持ってきた道具は――釣り道具だった。
今、鎮守府の港で俺と江風は釣りをしていた。
あまりにも緩やかに時が流れていて、夢の様な時間だ。
「波がゆらゆら。このご時世じゃ一番の贅沢だよな」
「うむ」
漁に出るのも命がけだ。農業が盛んになった反面、新鮮な魚はそれなりに贅沢な品となっていた。
大分、安定はしているらしいがね。それこそ艦娘が護衛についたりして、まったくとれないわけじゃないんだ。
…それに、大勢死んだからな。食糧自給率は心配要らない。世界が優しくて結構なことだ。
ははは。犠牲者の家族に聞かれたら、大変な事になりそうな思考だった。ううむ。また思考が淀んでいる。夏近い太陽が眩しかった。
「今日は釣れそうかね?」
俺の呟きに笑いながら。
「分からねえから楽しめるんじゃン」
「それはそうだな」
分かりきった結末なんてつまらないか。もっともな意見かもしれない。
ゆらゆらと海が踊っている。楽しい。激しい想いはないけれども、荒れた心が落ち着く気がした。
「…戦い以外でも楽しみがあって良かったよ」
思わず本音が零れた。そっと彼女を見ると、いたずらに笑っていた。
「ンだよ、江風を戦闘狂みたく言ってくれるなよな~」
快活に笑う彼女はただの美少女だった。太陽が良く似合う。外を遊び回る。そんな少女の姿があった。
戦場で砲撃をしているより、余程似合っていると思うがね。
一度戦場に出れば、夕立の如き楽しそうな笑みで暴れ回るらしい。とはいえ、まだ激しい実戦は経験させていないのだがね。
「あながち間違いでもねえけどさ」
戦いが好き、か。戦いこそが己の生きる場所と、覚悟が決まりきっている者達も多いのだろうな。
特に戦艦や空母は、明日から終戦ですと言われて納得がいくのだろうか? 平和の為に戦い続けるからこそ、戦争がないと落ち着かない矛盾。
解決するために世界全体で動いているのだがね。
「戦争、終わりそうなのかい?」