唐突な言葉だ。冗談として紡ぐには重すぎるし、何より彼女の表情は真剣だった。あえて俺から問い返す。
「なぜ?」
「ん~…提督を深く理解してるつもりはねえけど」
困った様に頭をかきながら、少し照れながらも真面目に言う。
「貴方は、戦争があればそんなに緩めねえ気がしたンだ」
「成程」
どうやらほぼ初対面の彼女にも分かる位に、今の俺は酷い顔をしているらしい。
「責めるつもりはねえぜ。大なり小なり誰だってそうなるだろうさ」
ああ。自覚はなかったけど、やはり終戦の予兆はショックだったのだろうな。良い事なのにさ。反動が出ているんだ。
自分で考えているよりも、遙かに疲れていたらしい。
いやまあ、山風に泣きついた辺りで分かりそうなものだけど。ううむ。…良い天気だなあ。青空が綺麗だ。
疲れている心に沁みてくる。隣には美少女、江風の姿。のんびり釣りが心地良い。良い時間だ。
だから、俺も気負わずに答えられる。
「深海共を絶滅はさせられないが、大まかな目処は立ちそうだと」
そもそも深海棲艦の発生原因は分かっていない。海の淀みが原因と言われたり、それこそ深海に棲む謎の生物説もあったり。
完全に絶滅出来なくても、広範囲の平和な海域を取り戻せそう。というのが現状なのだ。
「ふうん。艦娘はどうなる?」
「大勢死んだせいで働き口は多いからな」
陸に上がれば少女に戻るとは言え、艦装を展開すれば怪力は使える。重機の代わりめいた事も出来るのだ。ただ陸に上がっていると生理もあるらしい。
エロい意味ではなく。子を成せる可能性もある。深海棲艦と同じく。艦娘も謎が多い。
「それに、艦娘補助金が設立されている」
反対する者達もいないではなかったが、そもそも艦娘がいなかったら人類は絶滅していた。多くの者達が賛成していたのだ。
「俺の同期の一人が、戦争が終わった後の艦娘の在り方を見据えていたんだ」
そう。最初に言い出したのは同期の一人。おそらく転生者でもあるまいに、俺以上に艦娘オタクなヤツだった。
「金の流れ、人心、そもそもの需要を考えてシステム作りをしている」
彼の相棒は那珂だったか。武道館ライブをしたり、娯楽として艦娘を売り出している。
なんかそういう表現をすると風俗みたいだな。いや、実際にコスプレ風俗はあるみたいだけど。罰当たりな世の中である。
…俺はリアルで触れ合っているけどね! ふはは!
「戦いに疲れた者が休める場所を、或いは戦いに取り憑かれた者が暴れられる場所を」
戦争に狂う者達もいるだろう。空母、戦艦を筆頭に戦い続けたのだ。戦わなければ落ち着かないのも不思議ではない。
戦場は完全にはなくならないし、模擬戦や大会などを予定しているらしい。
賞金もそうだが、此処に艦娘在りと民衆に見せつける効果も狙っている。
「艦娘へ甘えきるだけじゃない。しっかりと日常を歩めるようにと努力している」
「ふうン」
興味なさげだった。考えるのは好きじゃないようだ。
「俺には出来ない事だ。素直に尊敬しているよ」
俺は戦争しか出来ない。鎮守府の運営しかできない。純粋に指揮能力で言えば、勝という同期の方が凄い。ダメダメだった。
「そいつに出来ないことを提督は出来るンだ」
江風がジト目で見つめてくる。仄かに怒りが乗った声だった。
「ンで、その出来るが誰かにとってかけがえない事だったりする」
言葉の裏に、江風にとって俺の行動がその、かけがえがないと伝えてくれていた。照れくさいけど素直に嬉しかった。
「肩落とすのは失礼じゃねえか」
ううむ。真っ直ぐな好意だ。今までは父性やら親愛だったけど、軍神としてストレートに認められるのは、久々かもしれない。
「…ありがとう」
「おう」