のんびりと受け入れられている。ただ熱く、静かに江風は微笑んでくれていた。嬉しいような、自分が情けないような。
まあ良い。今日はこんなにも穏やかなんだ。また少しだけ、自分を許してやれる。
かつての戦友にも許されて、ここで会えた者達にも受け入れてもらえる。これ以上の喜びはないのだろうな。ふっふっふ。俺は本当に幸せ者だ。これで響が、俺の男すら受け入れてくれたらどうなろうのだろう?
釣り竿は揺れず。魚は釣れなさそうだ。心が落ち着いていく。このまま一日を過ごすのも悪くはない。
「…あの山風がな」
ぽつりと呟いた。想いが込められた一言は、続く言葉を待たせる重みがあった。
「強くなりてえンだと」
本当に嬉しそうな笑顔だった。かけがえのない宝物を見せてくれていた。
ううむ。眩しい。心がくすぐったい。…山風にも本当に面倒をかけた。いや、そういう言い方をすると本気で怒られそうだ。
あ~日光で浄化される。うむうむそういうものだ。
俺も強くなりてえな。軍神として在る時は堂々といられるのに、人の弱さが漏れるとこうなるんだからさ。
「平和を当たり前だって笑える位に、強くなりてえンだとさ」
俺もそうなりたいもんだね。当たり前に平和がある世界を見ていたけど、経験した事がないんだ。
頭の中で妄想しすぎているのである。そうだね。変態だね。
「可愛い身内が張り切ってるんだ。江風の戦闘狂で台無しにしたくないし」
ぐっと、彼女が体を伸ばした。バランスの良いしなやかな肉体が素晴らしい。なんだか爽やかだった。青春の香りである。
「平和ってのをしっかりと楽しめるようにするよ」
「そう言ってくれると嬉しいがね」
PTSDでもないが、戦場に囚われているのもな。そこにロマンや愛はあるのだろうけど、傷つき苦しむのは素直に辛いぜ。
物語じみた輝きがなくても、穏やかな愛情を育んでほしい。
「きひひ。発散出来る場は作ってくれよな」
「同期の一人が頑張ってくれているさ」
それが、艦娘に救われた人類の義務でもあろうさ。俺は本当に同期に恵まれている。俺より指揮能力が高いヤツ。俺よりオタクなヤツ。武器開発に特化したヤツ。
あれ? 一番の落ちこぼれが俺じゃね? …冷静になったら死にたくなるので、止めておこう。一番幸せなのは俺だって言いきってみせるね。
それで良いのだ。そこだけは胸を張って宣言出来るぜ。
「そン時は提督も付き合ってくれよ」
「良いだろう」
やがて戦いを娯楽にまで落とせるのだろうか? いや、落とさなければならないのだ。そういう余生も悪くはないだろうさ。