「仕事は大丈夫なのかい?」
「既に済ませてある」
艦娘と触れ合うためだけの人生である。今までの頑張りも含めて、全部萌えの為に注いできた。
「よしよっし! さすがは提督だねい」
妙に江戸なまりであった。面白い。美少女の江戸口調って何で萌えるんだろうね。そうだねプロテインだね。
「そういやいっつも篭もりがちだっけ?」
「体が鈍りやすいのはあるな」
日課の運動はあるのだけど、こう見えて真面目に仕事もしているのである。
まあ、終戦の兆しが見えたおかげで、随分と安定しているのだがね。一体どうなるのやら。
…今更だが、艦娘の終戦後は色々と制度を用意しているけど、提督の終戦後は用意されていない。
提督の素質がある者は貴重だから、完全に廃業とはならない筈だがね。俺の同期も、俺含めて四人しかいないし。
「じゃあ今日はいっしょに体を動かそうか」「心得た」
ぐるんぐるんと彼女が肩を回した。涼しそうな腋が魅力的である。ついつい視線がイキそうに、いきそうになって止めた。
父性とのせめぎ合いであった。響への想いもあった。
ううむ。それを理由に己の心を封じるのは響に失礼か。いかんな。意識しすぎている。今も楽しもう。涼風との時間も楽しもう。
全力で楽しみきるのが俺の信条だろうよ。
「何をする?」
「まずは鬼ごっこでもしようか!」
「今からはじめな!」「お、おう」
実は俺の名前は
「提督が鬼な!」
唐突な声かけと共に涼風が走り出した。ふわりと動くスカートが素敵である。置いてかれないように俺も走り出す。
執務室を勢い良く出て、廊下を走り抜けていく。
途中、他の皆とすれ違うけども。挨拶もなしに走り抜けていく。
幼い美少女を追い回す大男の構図。見方によっては俺が変態であった。今更か。
けれど、すれ違う皆は微笑ましそうに見てくれていた。
昼寝に向かう川内は眠たそうに手を振り、それに付きそう神通や那珂は、まだ緊張が残る様子で会釈をしてくれた。
白露型の皆ともすれ違う。皆、らしい反応を見せてくれた。
楽しい。ただ走って、涼風を追いかけているだけなのにとても楽しい。
…それにしても普通に追いつききれない。大体、同じ位の速度を出していた。俺よりも遙かに小柄な少女が、俺と同じほどの速さで走れるのだ。
艦娘としての身体能力を強く感じられる。
「あっはっは! 全力で走り回るのは楽しいな!」
楽しそうに言葉を出す余裕すらあるのか。大したものだ。
俺ときたら段々と息が切れ始めてきた。汗が心地良い。普段から運動をしているおかげで、楽しいが勝っている。
「ほらほら提督、あたいはここだぞ追いついてみな!」
走りつつ振り向いて、爽やかな笑顔を見せてくれた。良いね。やる気が出てきたぞ!