「「「……」」」
すごい気まずい。本当に気まずい。空気に質量を感じたのは、夜戦で初めて窮地に追い込まれた時以来ね。
夜戦と違うのは、窮地を楽しむ余裕はこの食卓にないこと。
何で誰も一言も発しないんだろ。響も話すの好きだよね。口数少ないけど、嬉しそうに話す可愛い子なのに。
えっと。私も口を開いたらダメなの?
いや提督に話しかけられても困るけど。いやどうだろ? 本当に困るかな。
『川内。いつもありがとう』
いやいやいや! そういうのはないでしょ。うん。でも悪い気はしないよね。
『やはり夜戦は、川内がいないと始まらないな』
当然よ。そんなに褒めなくっても大丈夫! なあんて。想像も出来ないな。
悪い人じゃない。少なくとも軍隊としてみれば、かなり優れた人。
仕事ぶりは語るまでもないし、ここに来る前の話だけでも、相当に並外れた提督だ。
でもねえ。なんだろう。那珂ほどじゃなくても良いんだけど。もうちょっとこう。笑顔とか。
『艦隊のアイドルのていとくんだよ~!!』
ぶほっ!! あ、危ない。ここで吹き出したら危なかった。
想像でも無表情なせいですごい破壊力だ。こんな事を考えてるって知られたら、どんな反応をされるか。
うん。落ち着こう。状況に混乱しすぎてる。とって食われもしない。
せっかく今夜は非番なんだ。ごはんを食べたら、ゆっくりと夜空を眺めよう。
夜は良いよねえ、夜はさ。世界ととけ込んでいるみたいで。ああ。夜は良いねえ。…提督はどうなんだろう。
私たちは、提督の事を一切知らない。
それこそ、響とはいっしょに天体観測をしたり。わりと付き合いがあるんだけど。
ちらりと提督を見れば、なにやら考え込んでいる様子。
なんだろう。すごく真剣な表情だ。私が夜戦に挑むみたいな、熱く真面目に集中してる。外面は静かで、内面の熱さが分かるなんて。響みたいだ。
大規模作戦? いや、この鎮守府ではないでしょ。
むしろここまで攻め込まれたら、それだけで相当な危機だからね。
戦艦も正規空母もいない。軽空母は鳳翔さんだけ。今更だけど、敵空母が侵攻してきたら、相当に危ない場所。龍驤さんがすぐ来られる手はずなんだっけ。
やっぱり大規模作戦はないよなあ。分からないや。
うーん。でも命がけだと思う。相当な想いを感じるような。
――ほんの一瞬だけど、提督が私を見た。とくん、と自分の鼓動が仄かに高鳴った。
真っ直ぐ切り込む視線だ。雲間から差し込んだ月光みたく。静かで透明な心。
多分、提督は私が気付いたのを分かってない。
それほど本当に短い時間。…気になる。