「なあんにも考えず、馬鹿になるってのも悪くないだろ?」
「そんなに俺は気を張っている様に見えるか」
江風にも気遣われたけど、俺って余程悩み込む顔立ちなのだろうか。色男とまでは思っていないが、もう少し周りに愛される風貌が欲しいぜ
最近は、本当に表情が柔らかくなってきたんだけどなあ。どうにも。そんな風にぼ~っとしていると、涼風が俺の両頬を両手で挟む。
ぐにぐにと表情をほぐしてきた。小さな手が心地良い。…水着姿が近すぎる。目線を上に固定して、どうにか見つめ合う形。
「提督は頭が良いからなあ」
にやにやと笑っている。楽しそうな笑顔だ。無邪気な笑みとは、涼風の笑い方を言うのだろう。戦場の淀みは一切感じられない。
平和な日常が良く似合う。そんな笑みだ。
「いっぱい動いて、汗流してさ。腹いっぱいになって、ぐ~っと寝たら最高さね」
けらけらと楽しそうに笑っていた。彼女が語るのは子供の過ごし方。無邪気な夏の過ごし方だ。
そうして大人になって、働いて、家庭を紡いで。幸せを味わえたら最高だろうさ。分かっている。堪らない。
「…そんなに俺は酷い顔をしていたかね」
「大分マシになった。こうして見ると色男だねえ」
じ~っと真っ直ぐに見てきた。さすがに照れる。一度目を逸らす。そうして見つめ直すと、嬉しそうに笑っている。
なんだろうか。こう…母性? いや違うけども。
気の置けない仲な感じだった。ちょっと良い感じ。いや、大分良い感じ! 思わず俺の心の村雨が暴走している。ムラムラが冷めているかだろうか。おそらく違う。ああ。どうにも下らない思考も戻っていた。
「へっへっへ。あたいは難しいのはよく分かんないからさ」
「考え知らずかね」
「馬鹿なやり方しかしらないんだ」
その方が好きだ。しかめっ面で世を嘆くよりは、遙かに心地良い。そうして楽しい生き方だろうよ。
「でも、それで提督が元気になってくれたら嬉しいねえ」
ぐにぐにとしていた両手で、今度はわしゃわしゃと頭を撫で始めた。小さな手のひらが、しっとりと水気を帯びた俺の髪を撫でる。
優しさと気易さの篭もった掌だった。
照れくさい。だけど、微笑む己を自覚しながら。
「ありがとう」「水臭いのはなしさ」
にこにこと笑ってくれた。俺も応えて笑った。なんだか久しぶりに馬鹿な笑顔を浮かべられた。
「さあもっと涼風と楽しもう!」「ああ!」
ばしゃりと湯船から互いに出て、風呂場から出て行く。楽しく夕食を過ごしたり、トランプなんぞで遊んだり。
ドロドロとした淀みが消え去っていく。無邪気な涼風との一日を過ごしていった。