「…響がね。元気ないのよ」
「考え込んでるのです」
ぽつりと呟くような言葉達。しゅんと二人とも落ち込んだ。
雷は普段元気だからより一層目立ち。電は軽く涙を流しそうだ。真面目な雰囲気である。
ふむ。まあなあ。姉妹艦と言うのは、他の艦娘との繋がりより強い。白露を意識する海風の様にだ。暴走することもあるだろう。
無論史実が影響するのもあるけども。この世界では、そうして俺と過ごしてくれた響ならば、他三人の姉妹を深く愛している。
だからこそ、規格外の強さを得た己に怯えている。
何時かどうにかしたい。なんて、とても傲慢だけれど。鍛え合って、ひたすらに濃密な時間を過ごしてくれた。
恩返しもしたい。愛し合いたい。想いが強い。心臓の音が聞こえる。雷電姉妹の、二人の暖かな思いやりが鼓動を加速させるんだ。
ああ素晴らしい。深い絆が見えるんだ。心が震えている。
「電達に遠慮してるのです」
「怯えてるのよ」
それは幸せに怯えている。己を祝福出来ない。強くなりすぎた。その為に戦い続けてきた。史実でも、この世界でも別れを経験した。
愛し合いその果ての…命を残す行い。血を繋ぐ尊い行い。平和が怖い。そんなものを知らないから、怖い。
俺だって感じている。だけど、平和な世界を知っていて、前世もあって、幸せや平和を知っている俺ですら、そう思っているんだ。
別れと戦争しか知らない彼女が、ただの平和に耐えきれるのだろうか。恐怖に心は殺されないのだろうか。
「だから、私達が遠慮しないで司令官と向き合えば」
「きっと響ちゃんも素直になれるのです!」
雷電姉妹が楽しそうに笑っていた。全力で平和と幸せを楽しみきって、そうして響をも許してくれている。
俺と龍驤の関係みたいだ。はは。良いねえ。良い。愛おしい関係性である。俺とは別の意味で、響と深い関係だよな。
ちょっとだけ嫉妬している。俺では絶対に築けない関係だ。
「最後は一人っきりにしちゃったから、大切な人との関係を増やしてほしいの」
取り残されて、他の姉妹艦との別れを経験した。名前すら変えられて、最後は沈められた。笑えねえ。…幸せになってほしい。幸せにしたい。
抱きしめたい。もう一度、深く抱きしめたいな。
「電達とは、次に繋ぐ命は生まれませんから」
真っ直ぐに目を見つめられた。男として、真っ直ぐに目を見つめ返した。
「共に並び立つ姉妹として支えるわ。そこに変わりはないけど」
優しく微笑みを見せられた。ただ迷いなく笑い返す。
「やっぱり、触れあい育むのとは違う関係です」