いちゃいちゃ大好き提督日常   作:ぶちぶち

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彼女なりの察し方です

「いや、いやいやいや!」

 なかば叫ぶような言葉だった。思わぬ川内の元気な反応で、俺も必要以上に落ち込まなかった。ありがたい。

 わしゃわしゃと撫でていた手が離れて、彼女が黒ソファーに座る。愛用しているネコぬいぐるみを抱えて、ほっと一息ついていた。

 

「と、とりあえず隣に座りなよ…」

 消え入りそうな声であった。どっと疲れている。先程の落ち着いたお姉さん雰囲気は消えていた。いつもの川内らしいけど、少し名残惜しくもある。

「ああ」

 

 簡単に返事をして、隣に座る。座り心地の良いソファーだ。肩と肩が触れ合う距離だけど、緊張はしない。その程度には彼女と仲良くなれた。

 ほっと一息ついてから。

「何があったのさ!?」

 再び彼女が爆発した。顔も赤い。わちゃわちゃとしている。

 

 ふふふ。元気で愛らしい。川内って、本当に真っ直ぐだ。真っ直ぐな心で、全力で楽しんでいる。それでいて姉力もある。

 これ以上の見栄は必要なかろう。彼女ならば語っても問題ない。

「実は」

 

 今朝あったことを端的に説明した。飾り立てるほど複雑でもなく。単純に振られただけなのだ。振られた、だけなのだ。

 ――うおおおん!! 思い出しただけで泣きそうだ!!

 振られた。マジで振られた!! 響に振らせてしまった!!

 

 絶対彼女は気にしている。表面上は冷静に見えるけど、かなり情が深い女の子なんだ!! このスケベ野郎が色気を出したから悪いのに、断ってしまって悪いとか思うタイプなんだ!!

 いたたまれない。まじで泣きそう。泣いても良いか。駄目だ。

 

 泣きたいのは響の方だ。それを抱きしめる資格がない俺のせいだ。だから泣けない。泣く資格がない。

 でもよく分からないのも事実。

「愛していると、言ってくれたのに」「振られちゃったと」

 

 これが分からない。そういう意味では好きじゃないと言われた方が、まだ理解出来る。いやそっちの方が辛いけども。

『司令官。私は短小包茎の童貞に興味がないんだ』

 おぼろろ! 想像で吐いた。俺のブツが小さいかどうか。それは主観の話。響がそうだといえばそうなのだ。

 

 …ふふ。頭の中でふざけられる程度には、元気が戻っているらしい。誰のおかげかなんで考えるまでもない。 

「はあ、成程ねえ」

 川内が深く息を吐いた。しみじみと言っていた。

 

 俺には理解できないところで、彼女は何かを察したらしい。どことなく焦れたような、仄かに嬉しさもあるような微笑み。

「…響の気持ちも分かるかな」

「そうなのか?」

 

 教えてほしいと見つめると、困った様に微笑まれた。珍しい表情だ。

「ううん。ただ言葉で言っても伝わらないよねえ」

「そうか…」

 少し残念。響の隠した心を、根掘り葉掘り探りたいわけじゃない。

 

 ただ、俺が分かってやれていないのならば、俺が知らない響がいて、それを知る事で少しでも何か変わるならと思ったけど。

「塩を送るわけじゃないんだけどさ」

「川内?」

 

 彼女が俯き何かを考えているようだ。そうして急に顔を上げて。

「今日は呑もうか!」

「お、おう?」

 いきなり酒の話になった。そういう気分じゃないと逃げられなさそうだ。

 

「前々から約束してたからね」

 ああ。そういえばそうか。川内型三姉妹と交流するって、いつかの時に話していたかね。色々とあってすっかり忘れていた。

「せっかく今日は川内型皆が休みだからさ。約束ついでに呑んじゃおうよ!」


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