「俺は、俺は」
今、こんな瞬間にも思い描ける少女の姿がある。初めて出会った時から、この平和に至るまで、傍らで支え続けてくれた子がいる。
俺はその子に格好つけた。本音を隠して、格好つけて好かれようとした。
目の前の川内を見ろ。拒絶されるか怖いのに、ちゃんと自分の魂をさらけ出している。
性欲だとか下劣な欲望だとか、隠していない。熱が篭もっている。本音をぶつけてくれたんだ。しっかりと愛情を見せてくれただろう。
ここまで語られて、俺が誤魔化してなるものかよ!
「俺は響が良いんだ」
「私じゃダメ?」
川内は好きだ。嫌いなわけがない。好んでいる。心は一つだけにならん。迷いがなくなるかよ。でも、それでも俺は川内じゃない。
「響じゃないと駄目なんだ」
言葉は滑らかに出てくれた。躊躇は乗らなかった。決意が固まっていた。惜しむ心がないとは言わない。でも、それでもさ。
今俺は響を抱きたい。響じゃないといやなんだ。響が良いんだ。
――響!! う、ぉ、お、おおおお!!
燃えてきたあ!! ふは、ふははは!! ああそうだなんてことない。単純な理屈だ。俺は響が大好きなんだ。死んでいる場合か。落ち込んでいる暇があるのか。
振られたからなんだ馬鹿野郎。じゃあ自分を磨け!!
何度、何度も負け続けてきた。でもいつだって勝つために挑んできた。
なのにへこんで、自暴自棄になって。しかも告白の時に取り繕ったりなんぞして!! このくそったれが!!
今すぐこの熱い魂を伝えねばならん。燃え滾る心があると、俯き去って行った響に伝えてえ!!
「――良し! それが本音ならちゃんと言う!」
彼女が俺の上から降りた。にひひと笑う姿はあまりにもいつも通りで、気遣ってくれているのは容易に見てとれた。
「川内すまな…ありがとう」
「ふふっ。ビンタしないで済んだね」
にっこりと楽しそうに笑っている。川内らしい笑みだ。俺なんぞよりも遙かに強く。何より美しい少女の笑顔。
「でも最後に一度だけ。んっ」
ゆっくりと静かに距離を詰めて、だけれども迷いはなく。口づけ。お互いに目は閉じなかった。そうしたいと思える位、今日の俺達は近づき合った。
でもダメだ。交わらない。男と女を交わし合わない。
「振られたら付き合おうね?」
悪戯な微笑みで見つめてくれる。ああ愛おしい。俺の心は一本気ではないのだろうか。こんなにも川内が好きだ。素直な心さ。嘘はつけない。
「ふふふ。どちらに転んでも、か」
笑いながら、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめて応える。
「だが俺は諦めない。俺に出来ない事なんてないんだ!」
愚者の言葉だ。相手を想うだとか、失敗だとか。そんなのを投げ捨てた言葉だとも。相手を傷つけるかもしれない。怖い。怖いよ。
当然ながら、響にマジでその気持ちがなければ退く。それも怖いし、何より俺の下劣な欲望が、傷つけるかもしれなくて怖い。
…川内だって、そう想ったに決まっている。でも本音だった。本音だったんだ。俺も伝えていない想いがある。
ちっぽけで、弱っちくて、スケベな人間。それが俺の本音だ。ただただ愛おしすぎて仕方ない。それだけだ。
この想いは伝えきってみせる!! もう自重はしない!!
俺に、不可能なんざないぜ! わっはっは!!
「ふっふっふ。後悔するなよな~」「おう!」
提督の格好付けを捨てて人間の笑みで、見せたくなる程に優しく笑う彼女に背を向けて。
「じゃあ、行ってくる」「いってらっしゃい」
言葉と共に部屋を出て行った