走る。走り抜ける。息を切らして響の元へ。暁型姉妹艦に割り当てられた部屋へと走りついた。扉の前に少女が一人。待っていた。
「暁か」
「あら? ふふふ。迷いはないみたいね」
いつもと違った。あるいはいつも通りに大人な微笑みを見せていた。彼女は俺を認めてくれた。静かな目だ。響のお姉ちゃんの目だ。
「他の姉妹達はいないわ。ふたりっきりよ」
静かな微笑みで、通り過ぎる時に俺の胸を軽く小突いてから。
「今度はちゃんと決めなさいよね」「おう」
扉の前で一度深呼吸をした。この緊張感に覚えがあった。かつて駆逐艦に生まれた己を呪って、ふさぎ込む響の部屋に突撃した事がある。
今の想いはかつてを超えて、熱く彼女への好意に溢れていた。
迷わずに部屋へ入った。勢いのままに入った。そこには。
天使がいた。天使は響だった。
水色水玉パジャマに身を包んだ響が可愛い。いつもの帽子は外してる。美しい銀髪が見られた。突然入ってきた俺を見る瞳は、涙に腫れていた。
その瞬間俺の枷が外れた。躊躇が消失した。
「創?」
「響――結婚してくれ!!」「ふぇ?」
熱く。熱い。燃えているぜ。萌えているんだ!! 俺が、俺がどれだけ響を愛していると思っていやがる!! 舐めんじゃねえぞこの野郎!!
ああ、もう知らん。もう知らないからな。知らねえぞマジで。本当に知らん。童貞だから!! 格好つけとか取っ払うから!!
「俺は響が大好きだ!」
驚きに目を見張る彼女の姿も好きだ。段々と頬が染まっていく心を愛している。堪らない。
「しなやかな肢体。怜悧な瞳。それでいて情熱的な心」
絶対に抱き心地が良い! めっちゃ良い匂いする!! というか抱きしめたときの思い出で何度も自慰をした!! 俺は! 自慰をした!!
最高だったぜ…。
「全部全部大好きだ!!」
儚く微笑む姿を覚えている。内に秘めた激情を知っている。日常を愛する優しさを、己の弱さを許せない心も感じていた。
響と重ねた時間があった。ここで味わう日常だけじゃない。戦争を共にしてきた。或いは語れていないだろうか? 俺は、俺は刻み込んで生きてきた。
その全てで響は、すぐ横で過ごしてくれたんだ。
「提督として、艦娘を求めているんじゃない」
そんなものはどうでも良い。守る力が欲しいから戦っている。戦ってきた。平和に違和感を覚えようとも、俺はそもそも戦争は好きじゃねえ。
「俺という男が、男の全てが、響を求めているんだ」
滅茶苦茶気持ち悪い告白だ!! 格好良くない。でも川内は晒してくれた。だから
俺は惚れた女に全てを伝えた。
ばっさり切られるならば受け入れよう。そこから、惚れさせてみせるさ!!
己の心情を全て伝えきる言葉を受けて、響は無言のままに止まっていた。顔が真っ赤だ。萌え。鏡がないけど、俺の顔も真っ赤だろう。
震えている。仄かに涙目。さすがに泣かれるのは辛いけども。でも、しょうがないね。俺はそういう奴だ。取りつくろう軍神を取っ払ったら、こんなもんだ。
「…わ、私は」
震える声。たっぷりと数分は間をおいて、次の言葉が紡がれる。
「創が思っているような子じゃないよ」
またそれか! 俺がどれだけ響を好きだと思っていやがる。というか、俺が思っているような子ってなんだ。俺は響が好きなんだ。俺が見てきた響を愛しているんだ。
「じゃあどういう子なんだ!」
「私だってえっちな事を考えるし!」
嘆くような恥ずかしい言葉。もう完全に顔が真っ赤で、最高だった。本当に最高の言葉だった。
「最高じゃないか!!」
「あ、うぅ」
俯いて照れる響可愛い! 響可愛い!! ああ~滅茶苦茶萌えるんですけどお。
「…嫉妬だってする」
じとっとした目も萌え。というか俺も嫉妬するし。普通に妬いちゃうし。浮気されたら? まかせろ。腰振りを鍛えてみせるさ!!
響はそんな事をしないなんて押しつけないで。
「その夜は燃え上がるぞ」
それすらも俺は燃え上がって見せようじゃないか。ふはは!!
「こんな小さな体だから」
「安心しろ。俺は滅茶苦茶勃起する」
パンツ見たときに滅茶苦茶たってた。マイボーイも思わず爆発しちゃう。原爆級の破壊力だぜ。コレが本当のリトルボーイやかましいわ。
「変態!!」「変態だとも!!」
でもソレが俺だからね。しょうがないね。だから、ちらちらと股間を見るんじゃない。まじか。響もスケベだったのか。
えっ。ということはあれか。あのパンツって、まさか響が見せつけて――なんてこった、エロスの完全なる黄金比かよ! 達する達する!!
「歴戦の駆逐艦だって格好つけてたけど。いつだって不安なんだよ!」
…もう涙は隠さずに、大粒の悲しみと慟哭を瞳から流して、彼女は叫び続ける。そんな透明な声の叫びすら愛おしいのだから、大概俺も変態だった。
「私は取り繕っていただけで! 君に相応しい艦娘なんかじゃない!!」
それが、響の本音か。ふはは。何が相応しいだ愚か者め! 涙を流す必要なんてあるか。誰が必要かなんて、己で見定めるものじゃない。
誰かにそうだって言ってもらえること。その繰り返しで決めていくこと。それに、自己否定の歴史は俺の方が深いっての!!
「俺だってそうだ。必死に、意地になって提督としてやってきたけど」
まじでしんどかった。過去は宝物だけど、二度目は勘弁してほしい。それでも俺が頑張ってこれたのは、始まりに君がいてくれたからじゃないか!!
「俺はただ幸せにしたくて。何より初めて会った響に、君に笑ってほしくて戦ってきたんだ!!」
駆逐艦の存在を無意味と、絶望に沈む姿があった。死に物狂いの訓練を超えて、演習で初めて、戦艦相手に勝利した時を覚えている。
涙を流して、噛みしめる様な笑みで喜んでくれた。
俺はあの瞬間から響を愛しているんだ。日常を楽しむ俺を見て、軍神なんて語られる俺を見て、勝手に身をひかないでくれよ。
「その先で艦娘との甘い日常を夢見ていたけど」
全てを捨てなければ響と共になれないんなら、そのルールをぶち壊して生きてやる。俺が日常を捨てて生きようとすれば、愛おしい彼女は拒むから。
何もかもを手にする。全て、諦めないで生き続ける。だからさ、最も大切な響を手に入れたい。ああそうだ。利己的な、我欲でちっぽけでスケベだとも。
でも全ての本音は。
「何より響じゃなきゃ嫌なんだ!!」
それだけだ。それだけである。
「俺は響を抱きたい。愛し合いたい。過ごしていたい」
愛を交わし合う。情事を重ねて、堪らぬ時を共に過ごしたい。
「死が、終わりが俺達を別つまで」
いつか来る終わりを納得するために、そう。納得したいから愛し合いたい。
「俺はただただ響と一緒に過ごしていたんだ!!」
もう、涙が溢れて響の姿がぼやけてきた。堪らん。言葉が止まってくれない。熱く続いていく。止まるつもりもない!!
「響が、響自身を愛せないなら俺は語り続けよう」
ちょう美少女! 気づかい上手! しかもスケベって最高やん。えっ。まじですか。童貞の俺の手に負えるんだろうか。
リードされるのも良いよね! ふひひ。ああ愛おしい。もう本当に愛おしい。ぶっ壊れている。堪らん気持ちが突き動かすんだ。
「響が、俺を愛せないならば「そんなわけあるか!!」
涙の霞すら超えて、真っ直ぐに俺の眼前へ顔を突き出す。真っ赤になって涙が溢れて、それでも響は美しかった。まじ天使。ああ愛おしい。
「私だって創が大好きだ!!」
びりびりと震える程の声、想いが伝わってくる。熱く心臓が燃えている。体が震えた。つまりこれは、そのあれだ。どれだ。
響もつまり俺が好きなわけで、俺も響が好きで。つまりこれだ。
相思相愛だこれ!!!
「鍛えられた肉体が好きだ。負けない目つきが大好きだ!!」
え、やだそんな目で見られてたの。ドキドキしちゃう! ふ、ふはは。ふはは!! 大分壊れてきたぜ!!
「いつか終わりが来るとしても、私はそれまでの時を君と過ごしたい!」
激情のままに紡がれた言葉が脳にしみ入って。相思相愛の事実が魂に届いて、受けいれてくれた喜びで粉砕しそうだ。
溢れんばかりの想いのままに、全力でガッツポーズをしながら。
「――よっしゃあ!!」
最高の喜びを世界に吐き出してやった!! 恋人同士だ!!