響に嫌悪感はない。自然な様子。絶対にないとは思ってるけど、提督権限ではない。
となると、そうか。提督は両腕を骨折してるんだ。謎は全て解けた。
さすがは提督だ。両腕を粉砕骨折していても、表情にすら出してない。なるほどね。
神通の尊敬ぶりに少し引いてたけど、これなら納得だ。うんうん。
「あーん」
提督が食べた。あーんを受け入れた。静かに食べてる。おいしそうだ。
な、なんだろう。この胸の変な切なさはなんだろう。
嫌悪感ではない。それは分かる。まさか夜戦? いやいやよく分からない。相当混乱してる。顔が熱い。変な気分だ。どうしよう。
悪い気分じゃない。そう。シュールすぎる。笑いそうだけど笑えない。
わ、私も食事を進めて。
「あーん」今度は提督が響にしかけた。
えっ? 夢? 夢だよね。何がどうすればこうなるの。現実が受け入れられないよ。
提督の腕は骨折してなかったの?
…両腕が折れてても、提督ならいける。いやいや。ないない。
いや、それはそうだよね。からあげ定食を頼んでた。
看護でしているなら、からあげ定食はいらない。あのからあげおいしそう。ふふふ。我ながら現実逃避を始めたがってる。駄目だ。
応じた提督の勇気もすごいけど、彼女も躊躇わず。
「ん」
響が食べた。おいしそうに頬を緩ませている。可愛い。響は可愛いねえ。響はさ。
そんな彼女と目が合った。じ~っと、強い意志を込めた瞳で見てる。
何だろう? すごい熱意を感じる。使命に燃える戦士みたいな顔。
口パク。なんて言って。
『川内さんも』
え、ええっ!? なんで。なんでよ。それは可笑しいと思うんだけど。
いやだって、提督と響は仲良しでしょうよ。でも私は接点とかない。だけど。
響の強い眼差し。縋るようにも見える。頼み込んでいる姿。
『おねがい』
私だけが頼りだと、言外に示してる。確かに他の子達は逃げた。
なんだかんだ提督を尊敬してる神通も、今日は哨戒任務で忙しい。私しかいない。
よし。よく分からないけど、分かった。もうだめだ。考えるのに疲れた。理屈はよく分からない。
だから流れに乗ろう。覚悟を決めた。夜戦だ。夜戦と言ったのは自分。ならいこう。
「提督」
声が震えなかった自分を褒めてあげたい。よく分からないこの流れが終わったら、ゆっくりしよう。そうしよう。
慌てちゃ駄目だ。提督は落ち着いた眼で見てる。
私も心を乱さない。よく見れば可愛い顔…はしてないけど。
きっと提督は、威圧したくてしてるわけじゃない。
本当によく観察したら、瞳の奥の光は柔らかいじゃない。
「あ、あ~ん…!」
彼に食べさせるように、箸でほぐし身を差し出した。手が震える。今度は声も震えちゃった。真っ赤な顔が熱い。のどが乾くよ。