そろそろ終わりが近いかもしれません
決戦の予兆です
魂から光があふれ出ているようだ。世界が輝いている。いつもの執務室がいつも通りではない。なんかもう輝いているぜ。
鳩尾から指の末端まで、全身に凄まじい活力が漲っていた。いつもなら数時間はかける仕事が、僅か十分で終わってしまった。
「今日は早いね」
ソファに座っていた響が微笑む。優しげに細められた眼が綺麗だ。抱きたいけど我慢。いつ誰が来るか分からない。その相手が川内だったら、気まずさが半端じゃない。
「紅茶を淹れてくるよ。お菓子はクッキーで良いかな?」
「頼んだ」
「了解。それじゃあ司令官、良い子にしてるんだよ」
にこにこと笑いながら、彼女が寝室へと戻っていく。
一人残された俺。仕事もなくぼんやりとした時間だ。
これでは手持ち無沙汰である。むしろ手持ち豚さんである。
響に豚野郎って詰られるのも良いな。
『こんなに幼い私になじられて、気持ち良くなってるんだ?』
今夜はそれで、いやまてまて。逆に響をメス豚と。
『哀れな私にお慈悲をください』
落ち着け。落ち着くのだ。ふう。
――落ち着けるか!!
こちとら童貞捨てたばっかじゃあ!! 今すぐにでも響が抱きてえ。抱きてえよお!!
脳みそが我慢の炎で焼き切れそうだ。ふふふ。幸せの代償。堪んねえぜ!
でも真面目にお仕事。俺の仕事が少しでも彼女達のリスクを減らせるなら、是非もないよね!
ふう。とはいえ仕事がマジでない。どうしよう。
…ならよくないか。執務室でとか最高じゃないか。机の下でとか逆に机の上でとか。扉の前でとか完璧じゃないか。完璧が過ぎる。
落ち着け。落ち着くのだ。俺は猿か。ゲームでもあるまい。リアルにしてはいけない。
ふう落ち着け。我、軍神ぞ。一応畏れ多くも神と謳われた英雄ぞ。それ位は耐えられ――でも神ってお盛んだよね。しょうがないよね。
などと調子に乗っているから、忘れていた。物語は、運命ってのは、こうして調子に乗っている時にこそ訪れるのだと。
電話が鳴る。非常時にのみ使う電話。音を聞いて魂が震えた。
何かが変わる音。これを取れば、今までの日常が変わる。それでも迷わずに受話器を取ると。
馴染み深い阿武隈の声が聞こえた。
『久しぶり。創ちゃん』
「ああ。息災か?」
『とっても元気だよ! ふふふ。色々と話したいけどね』
「…どうした」
阿武隈の声色だけで、彼女がどれだけ重たい想いで電話をかけてきたのか分かる。
阿武隈は激戦区で活躍していたわけで、彼女の性格を考えると、逃げるために俺を頼る事はないのだから。
『始めに謝っておくね。ごめん』
声に悲痛な叫びは乗らず。阿武隈は強いから見せず。
それでも不思議と電話口の彼女は、泣き出しそうな顔をしているのだと確信しながら。
『戦ってもらう必要が出来たんだ』
いよいよ逃げられない戦場が来るのだと告げた。