戦うと決めてからは迷わず。まずは皆を作戦室に集めた。眼前にはこの鎮守府の艦娘全員が立ち俺の言葉を待っている。
天龍型、川内型、白露型、暁型。響だけは俺の隣で佇んでいる。
まだ深く関わっていない潜水艦と鳳翔や伊良湖。それに間宮もいた。
この鎮守府に関わる全てだ。全ての者が此処に集まっている。
「もしかすると既に話を聞いていた者もいるかもしれない」
俺の言葉を黙って聞いている。皆真剣な表情を浮かべていた。言葉はつまらない。喉が乾くような緊張はあっても、それでも俺は提督でいられた。
「深海棲艦が最後の悪あがきをしている」
概要を簡単に伝えた。一度だけ、隣に立つ響の顔を見た。静かな面立ちだった。彼女らしい色。俺の心も波立たず。静かに凪いでいる。
その上で、皆に繰り返し伝えるように。
「駆逐艦と軽巡洋艦だけを通す結界だ」
潜水艦や軽空母すら通れない。そうして待ち受けているのは、恐らく敵空母や戦艦共だろう。
その意味が分からない者達ではない。
「…敵側はこちら側のリスクを弁えているらしい」
皆の表情の重みが増した。ゆらりと熱気が上がった。こんな状況なのに笑みが零れそうだった。ああ。良い顔をしている。
俺が愛した、艦娘の顔をしている。
だから伝えよう。彼女達の魂にふざけた言葉をぶつけよう。
「あえて言おう」
堂々と背筋を伸ばして、腹から声を出して――伝える。
「逃げたければ逃げて良い。俺と響で殲滅する」
みしりと空気が軋んだ。笑っちまう。なんて気高い表情を見せるのだろう。なんとなく山風の顔を見た。ああ。彼女も艦娘だった。
春雨の顔も見た。睨み付けるような凜々しい眼差しだった。良い。
「君達の日常は壊させない。軍神の名にかけて責務を全うしようとも」
更に言葉を続けようとして、遮る声が上がる。
「なあ提督」
天龍だ。天龍が俺を見ている。たった一つの眼光が刃みたいだ。俺が萌えた、そうして燃えた彼女の眼だった。
つかつかと歩みを進めてくる。俺を睨み付けている。かつて見せた自棄になった啖呵とは違う。淀みなんて欠片も存在しない。
天龍が己を、皆を誇っているからこその怒り。良いねえ。
鼻先すら付きそうな至近距離で、爛々と輝く隻眼のままに告げる。
「――舐めてんのか?」
熱い。良い。たまらない。やっぱり天龍はこうでなくちゃな。
「ようするにアレだろ。相手さんは、駆逐と軽巡程度なら話にならねえと」
そうだ。そう思っている。それは皆も分かっている。これまで激戦区には、駆逐艦や軽巡洋艦は出ていなかった。
阿武隈なんかの例外はあっても、この世界の理はその2種に優しくなかった。
「オレ達だけじゃあ戦えねえと思われてんだろ」
提督への負担。そもそも大破撤退も出来ない世界。彼女達は装甲が脆い。死なせる為に誰が出撃させようと思うか。それが許される程度には世界は甘かった。
「なら話は簡単だ」
天龍が一歩退いた。彼女の後ろにいる艦娘達の姿が見えた。
侮辱に怒りを燃やす者達がいた。戦へ怯えながらも、堂々と立つ者達もいた。逃げようと思う者達はいなかった。
確かに彼女達も艦娘だった。
「オレ達の意味を思い出させてやれば良い」
「ほう?」
「戦場から敵を駆逐するからこその駆逐艦だって」
夜戦時の駆逐艦の能力よ。戦艦を一発でぶち抜く火力と、燃費の良さを両立する最高の艦種だ。回避能力にも優れていて、極まれば最強に近い艦種。
「海上を軽やかに駆け巡るからこその軽巡洋艦なんだって」
駆逐艦すら凌駕する爆発的な火力を発揮し、装甲も強化されて、落ちぬ速度が魅力的な艦種だ。弾は当たらず。当たっても装甲で弾く強さを備えている。
そうだ。強くなれる。強くなれるんだ。この世界の提督の在り方で戦えなかっただけだ。彼女達は強い。ここで強くなったんだ。
「そんな事を忘れちまったこの戦場に、オレ達の意味を教えてやる」
にやりと笑い堂々と胸を張る。豊満な胸である。うむ。
天龍らしい格好良い笑み。
「それだけの話だろうがよ」
「そうかね?」
からかうように言ってみた。彼女は応えるように笑った。
「おう! ふふ、怖いか? 安心しろよ提督」
ど~んとでっかい胸を張りながら、バカまっしぐらな彼女らしい声で言うんだ。
「オレは当然世界水準超えだからな!」
へへ~んとドヤ顔である。ははは!! 最高だ。
「んで、オレの後ろにいる奴らはもっとすげえ」
誇らしげに後ろを指さす。そうさ。知っているよ。この鎮守府での彼女達の頑張りは、日常を歩みながら知っていったんだ。
「怖がる理由がないだろ?」