「くくく。良いだろう」
どうしようもなく愛おしくて笑った。目の前に佇む彼女達へ視線を戻す。
「他の者達も遠慮のない意見を聞かせてくれ」
問いかけると、誰よりも早く一番に答えてくれるのはもちろん彼女。
「いっちばん格好良く戦うからね!」
白露。初め癒やしてくれた一番艦の格好良い宣言だった。ああ。これだ。彼女らしい応え方に胸が熱くなる。
「だから提督。甘えても良いんだよ」
にこりと笑ってくれた。傍らの響の視線も感じる。ふふ。ごちゃまぜになった感情が嬉しい。
「提督は前に、お願いをしてくれと言ってくれたよね」
静かに微笑む時雨の在り方。かつての儚さは消えなくても、芯に強さを残した凜々しさと共に。
「なら願うよ。貴方に佐世保の時雨と語られた僕を頼ってほしい」
かつての武勇も背負いながら彼女は穏やかに覚悟する。
抱きしめ甘やかした幼子は残っていても、時雨はやはり艦娘だ。
二人の姉の強い宣言を受けて、だけれど日常の柔らかさのままに彼女は告げる。
「頑張りすぎたらまた泣いちゃうわ」
肩肘張らずにただのんびりと、どこかからかうように楽しげな笑みのまま。
「村雨達のちょっといいとこ見ててね!」
続く彼女は変わらない。待ち受ける戦場を楽しみに、堂々と血をたぎらせて吠え立てる。
「前に言った通りっぽい」
にやりと笑う姿は獣の如く。守りたいと願う心を見せて。夕立は熱い言葉で言ってくれるんだ。
「夕立は艦娘だから、戦うために生まれてきたっぽい!」
4名の力強い宣言が響いた。いつも後ろに控えていた彼女だって、力強く拳を握って言うんだ。
「春雨に期待してほしいって言いました」
じとりと春雨らしい縋るような、甘えるような目を見せながら。
「司令官のおかげで強くなれたので任せてほしいです。はい」
なんて理不尽な運命だろうと、どれほど世界が舐めているのだと。言いたくなる時だからこそ、明るく彼女は抗う。
「運命に悩む私を認めてくれたじゃないですか」
ドジっ子なんて性質に悩んだ五月雨だから、与えられた試練に笑って戦えるんだ。
「この程度の苦境に負けませんよ!」
初めて出会った時の彼女は、一番艦に拘っていた。そのままだったら、この状況もあるいは武勲を示す場として言ったか。
「海風らしさで構わないと言ってくれました」
違う。ここで静かに微笑む海風は違う。包み込む抱擁力と甘えられる心を宿して、声を紡ぐ。
「ならば海風をしっかりと頼ってください。それが今のらしさです」
怯えの心は消えない。いつだって沈むのは怖い。逃げ出したくて堪らないくせに、それでも彼女は笑ってすらみせた。
「提督はあたし達のために泣いてくれたから」
奥底にある絶望すらあっても、それでもと、俺を安心させたくて笑う山風は短く。
「守らせて。これで終わりにしよ」
ぽりぽりと頭をかいて、困った様に笑いながら彼女は呟く。
「もとから江風の楽しみは戦場だっての」
平和を楽しむ覚悟があるからこそ、己の在り方を偽らない。江風らしいさっぱりとした笑みで、俺の心を認めてくれる。
「遠慮すンなよな」
残る彼女は何も考えない。いつだって全力だ。
「あたいは難しいのはわかんねえ!」
堂々とした涼風の宣言だった。それが投げ出す意味を持っていないのは、一緒に体を動かした俺も理解しているんだ。
「ただここで逃げたくない。それだけさ!!」
ふわりと愛らしい黒髪を後ろに流して、大人な雰囲気で少女は告げる。
「大切な妹を残していけないからね」
それは、とんでもなく重たい心を愛情で包んだ暁らしい言葉だった。大人であり幼さを残す彼女らしい宣言だ。
「立派なレディーだもの。守り切ってみせるわ」
二人の姉妹は手を繋いで、いつか響のために頑張ってくれた時以上の熱で、俺へと言葉を届けてくれる。
「もっと、も~っと頼ってほしい位よ!」
雷らしい大っきく無邪気な言葉だ。
「戦争は怖いです。それでも守りたいのです!」
雷らしい優しくも力強い心だ。雷電姉妹は支え合い進んでいく。見守る軽巡は大人の静けさのまま、より深く強く心を固めている。
彼女らしい妖艶な笑みを浮かべて、ほんわかと言う。
「あらあら皆はりきって。ふふ。負けてられないわ」
そう。龍田はいつだってしとやかで落ち着いていて、とんでもなく物騒に戦える。
「悪い子達には後悔させてあげましょうね~」
そんな龍田の後ろに立っていた彼女は、この場の誰よりも凜とした雰囲気を纏っている。
「戦場に挑む為磨き続けた刃」
この世界でひたすらに己を磨き続けた神通。最早それはただの戦士とも呼べず。研ぎ澄まされ切った言葉は、侍が振るう刃に等しい。
「振るう場を設けてくださり感謝いたします」
とんでもなく鋭い魂と反するような、いつだって楽しむ彼女も言う。
「楽しいステージのためならどこまでも頑張れるよ!」
ど~んと胸を張って、今にも踊り出しそうな那珂の雰囲気が好きだ。絶対に勝てるんだって素直に思えた。
「いつかは人々の前で踊りたいよね!」
残るは彼女。この鎮守府で誰よりもお世話になった艦娘。
「ね。その先に二人の幸せはある?」
本当に優しい声で、言葉で、愛情だった。響が言葉を出す前に、まず俺から川内に応えた。
「ああ。穏やかな日常を楽しめる」
なにか運命がまかり間違って、いやある意味ではいつも通りに決戦の空気が出ているけど。ここを超えたら俺は日常を歩める。
いちゃいちゃ大好き提督日常を楽しめる! ここまで十分楽しんできたけど!
最愛だって定めたんだ。ここからだ。ここから、俺は日常を歩んでいくと決めたんだ。
「きっとその先は幸せを求めて頑張っていける」
「川内さん」
響は無駄な言葉なく。ただ名前を呼んで、万感の思いを乗せていた。一度、川内が目を閉じた。日常で見慣れた彼女の癖だった。
そうして開かれた目は、夜戦ばかのソレ。にやにやと笑う。ニコニコとしてる。己の楽しいを、魂に刻み込んだ者の顔。
なんて川内らしい。俺が本気で愛おしいと思えた、男として愛おしく思った。
そんな彼女の顔。雰囲気。魂。
「そっか。なら迷いはないよ。まあ任せておきなよ」
ぷらぷらとしたらしい感じで、一切気負わずに続ける。
「呆気ない位簡単に片付けてくるからさ」
艦娘達が再び隊列を組んだ。一切の乱れがない姿だった。
最後に伝えよう。出撃させてやる位しかできなくて、完全な指揮もとれないけど。でも俺は提督だから。ここまで続いたから。
「ここまで耐え抜き磨き抜いてきた君達へ伝えたい」
胸を張って堂々と、皆の顔を心に刻んだ。告げる。
「この海の平和を取り戻してきてくれ!」
「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」
十八の声が重なり。編成のままに三つの艦隊が出撃した。