ほとんどの艦娘が出撃した。残された面々。
潜水艦達と、鳳翔や間宮などの非戦闘員がこの場に残っていた。
戦いに向かった彼女達を思って、ここから動こうとしない。
静かに重たい空気が流れていた。
俺も意識を集中し三艦隊との繋がりを維持するも、今までの指揮とは完全に別物だ。
負担こそ無いが、それぞれの戦場を把握することしか出来ない。
羅針盤に祈りを託すような気分だった。ずいぶんと懐かしい感覚である。
指揮を執る俺の邪魔をしないように。残された彼女達は問いかけてくる。
「司令官。イムヤは戦力にならない?」
赤髪の彼女の真摯な問いかけ。答えが分かっている聡明さと、それでも言葉を出した心が伝わった。
「イクも戦いに出たいの!」
無邪気なイクらしい言葉だった。純粋に、仲間達だけが危険なのはイヤだと言う。ある意味では子供らしいわがままだった。
「これじゃあ戦力外通告でち」
どこか悟ったように、いじけたようにゴーヤは嘆く。ふふ。過労のイメージがある彼女が、この世界では一番の働き者なのだから愛おしい。
伊168、伊58、伊19。この鎮守府における潜水艦達。
今まで資源回収の花形は彼女達だった。運用するコストが、この世界でも低く。提督の指揮をあまり必要としていない。
何より特出すべきはその生存能力か。
この世界において最も重要な力である。斥候、資源回収、陽動など。提督の負担が少ない艦娘というのは、それだけでも大切だ。
特にここでは重宝される能力だった。
軽巡や駆逐達と比べると、戦場に役割があったと言い換えてもいい。
そうだ。潜水艦は力があるんだ。
今回は結界に阻まれようとも、戦う力があるんだ。
今まではそれすらなかった軽巡や駆逐艦達よ。資源回収は潜水艦が活躍し、かといって前線は戦艦と空母の居場所。
戦える力は、敵を轟沈させる力はあったさ。提督にとって最も負担になる。脆さと兼ね備わっていたからこその悲劇。
出撃した彼女達には、どれ程の想いがこもっているのだろう。
そうして立場変わり。戦場へ赴く者達を待つしか出来ない。そんな想いはどれ程なのだろう。
考えるまでもない。ここに至るまで触れてきた想いが答えだ。
今、ここに残っているのは今まで戦いを許された者と、そもそも前提として戦えない者だけだ。唯一鳳翔のみが、前線を知り悔しさに深みがあるか。
そうだ。悔しい。悔しいに決まっている。
だからこそ忘れず。待つことこそ彼女達の戦いなのだろう。今の俺はそれをよく知っている。この鎮守府で出会った艦娘達が、答えを教えてくれた。
「君達にとって、かつての皆は戦力外だったのだろうか。無価値な存在だったのだろうか」
皆の顔が嶮しく歪む。怒りと、そう思わせてしまった己の弱さへの苛立ち。
ふふふ。本当に愛おしい者達だ。あえて分かりきった言葉を続けよう。
「違う。違うだろう?」
そうだとも。どんな者達にも役割があった。
「後ろに待っていてくれる者が、守ってくれる者達がいるから」
帰れる場所があるか。待ってくれる家があるから。
「辛く苦しい海へと潜り。戦場へと進めたのではないだろうか」
一度、潜水艦の指揮を執った経験がある。あれは怖いものだった。
まさしく漆黒。塗りつぶすような暗闇が世界を覆っていた。特殊な感覚で動きこそ自由だったけど、正気を軋ませるストレスがあった。
「今は役割が違うかもしれない」
戦場も終わる。艦娘なんてものも終わるかもしれない。
「それでも無意味じゃない。輪の外になんていないよ。守りたいと思っているのだろう」
残された者達として鎮守府の守りを、戦い戻る彼女達の居場所を。
「待つことも戦いだ。…さあ俺達も戦おう」
「「「「「「はい!」」」」」」