力がほしい。弱いままならいっそ死んでしまいたい。常に全身を絶望が包んでいる。
かつての天龍の考えだ。無様な己を残す位なら、一瞬で燃え尽きてしまいたかった。
今は違う。
後ろにいる大切な仲間たち。こんな自分なんかを、愛してくれる者達がいる。ふと、提督の事を思い出した。
「くくっ」
思わず笑みが零れる。すけべで、馬鹿な男だった。
乳を揉んで動揺していた。なんて面白い。
…どこか似た目をしていたと。でも彼は幸せを選んだ。響と、愛らしい彼女と共に生きるんだ。
ならより一層沈めない。
「きっとアイツも泣くんだろうよ」
天龍と同じく。涙を見せないで泣くのだろう。
無様でもいい。それしか出来なくて構わない。だけど。それでも
「オレも仲間も守ってみせる…!!」
魂の奥底から無理矢理に力を引き出して、紡ぐは一筋武骨な大剣。改二としては遙かに弱い力。
破格の火力などいらない。無様でも守り切れれば、それで構わない。
「オレの前に出るんじゃねえぞ!!」
大剣を構えた。迫る爆撃を迎え撃つはなんと不器用な対空能力よ。
剣を振るう。対空砲を乱れ撃つ。装甲を掠めボロボロになりながら。徐々に体が壊れていった。それでも、意地でも後ろには通さない
駆逐艦達は逃げない。怯えもない。あるのは集中だけだ。天龍が、尊敬する天龍が凌ぎきった瞬間に雷撃を放つだけ。
「ぁ、が、ああ、お、らああ!!」
雄叫びを上げた。喉が熱で焼かれている。肺が燃えているようだ。
とっくの昔に限界は超えていた。旧式の肉体が、時代遅れの武装が悲鳴を上げていた。
でも生きている。生きているじゃねえか。
まだ守れる。絶対に死なない。そうだ。それだけで良いから。
「――それだけは譲らねえぞ!!」
黒煙が視界を埋め尽くし、そうして晴れた瞬間に。
天龍含む四隻は生き残っていた。当然の様に生きていた。
『馬鹿ナ!?』そうだとも。天龍は馬鹿だ。
敵空母の動揺をよそに、突撃した者達は後方を一切気にかけていなかった。すでに射程距離として十分。
さあ、殺し合いの間合いだ。
『ガァア!!』
舐めるなと敵戦艦が吼える。当然だ。そこに。
『グギッ!?』
炸裂する駆逐艦の魚雷。なぜ。あまりにも唐突に装甲を壊された。
その疑問を解決する術も無いまま。神通の砲撃で敵戦艦共を轟沈。続く龍田の雷撃が、敵空母を半壊まで持ち込んだ。
有無を言わせない一方的な展開。これが軽巡最強の神通が力。遊びなく無駄もなし。研ぎ澄まされた刃の如き。
『ドウ、シテ。性能は、ワタシ達の方が』
呆然とするしかない敵を見ても感動はなく。
淡々と神通が言葉を返す。
「適材適所。この距離ならば私達の方が優れていた」
心の揺れが無い。問われたから返しただけなのだろう。
「それだけです」
激しい感情もなく。神通の無慈悲な砲撃が、敵艦隊を轟沈させた。
海の濁りは晴れて、空には太陽が浮かぼうとしていた。夜が明ける。なんて、なんて綺麗な光景なのだろう。
ボロボロの天龍を支えるように、神通が肩を貸していた。龍田と駆逐艦達は、周囲の警戒をしているようだ。
はからずも二人きりのようで、おそらく他の者達には言葉は聞こえてなくて。
ぽつりと神通から言葉が漏れる。
「…私が実は天龍さんに憧れていたと言えば、皮肉に聞こえますか?」
「あん? ははっ!」
なによりも天龍らしい格好良い笑みを浮かべて。
「なにせオレは世界水準超えだからな。当然だろ?」
「ふふっ。さすがは天龍さんです」
二人の様子に気付いたのか、他の面々も心底楽しそうに笑うんだ。
「あんまり無茶は駄目よ~」
「いっつも先に中破しているのです!」
「もっと私達を頼ってもいいのよ」
誰かが沈んでいたのならば、この光景はありえなかっただろう。眼帯の内に不思議な熱を感じた。
「…こっちの目に光はねえのにな」流れる液体なんざ無いはずだ。
でも悪くは無かった。
「天龍さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫だっての。他の奴らも大丈夫かね?」