歌だ。歌が流れている。
戦場に場違いな愛らしい歌声が、味方を鼓舞し息を合わせる。
相手の威圧にも負けず。徹底的に連携をとる。
各個撃破。絶え間なく続く砲撃の雨を受けて、尚も折れぬ心が敵を壊していく。
それぞれのぎこちなさは消えた。
息をするように自然な連携が、敵の攻撃を捌いていく。
生き物が如く。自在に放たれた魚雷が、敵戦艦の装甲を貫いた。
火花散り。轟沈。水雷戦隊の強みを、徹底的に活かした戦い方。
強い。強すぎる。残るは北方棲姫のみ。
だと言うのに体が動かない。当然だ。
疲労と負傷ですでに満身創痍だった。
「かはっ。あ、はは。那珂ちゃん限界かも」
那珂の声は枯れている。先頭に立って戦い続けた結果である。
皆も全身が鉛のようだ。手足の感覚は消え失せていた。
「でもまだ諦めきれないよね?」
「当然! まだまだ一番がんばれるよ!」
那珂についでボロボロだが、白露の声に力はあり。
「無理は、だめですよ」
白露を支えるように海風が応える。
「はいはーい。村雨もまだやったげる」
楽しそうに笑う彼女はいつも通り。
「この程度。いつものドジに比べれば!」
健気に抗う五月雨と。
「へへっ。あたいもまだいける!」
応じる涼風は愛らしく。
そうだ。まだ瞳の光だけが、弱々しくも消えていない。
『ドウシテ苦しむの?』
ノイズ混じりの声が聞こえる。戦場に似つかわしくない。幼子の声だ。
『沈メバ、ラクだよ』
言っている事に比べて、遙かに声は優しかった。
『ズット戦うなら、アナタ達も捨てられない』
彼女は何を知っているのだろう。
『誰ニモ忘れラレナイ』
ぽつりと零れた呟きは、戯言と捨てるにはあまりも馴染む。
戦争が終われば、艦娘はどうなるのだろう。
この世界の人々は優しい。優しいが、平和が続けば強大な力は恐れられる。ある意味それすら救いで、いつかは艦娘すらなくなるかもしれない。
『ソレデモ戦う?』
「誰もが艦娘を忘れないくらい。那珂ちゃんは輝くから…!」
「のんびり良い感じにすごしたいの!」
「兵器が必要ない平和が、いっちばんいいでしょ!」
「意地を張らないで姉妹達と過ごしたいんです」
「待ち受ける辛い運命なんかに負けません」
「バカ騒ぎすんのに戦場はいらねえさ」
皆それぞれの答えながら、誰一人迷いはなかった。
北方棲姫が微笑み。だけどそれは一瞬で消えて。
『――ソウ。ワタシを、超えられる?』
艦上攻撃機が射出される。
おぞましい程の数を揃えて、こちらを撃滅せんと迫り来る。放たれる爆撃の雨は、一つ一つが命を消し飛ばす力。笑える位に圧倒的な暴力。
それでも諦めはなかった。
声を上げて突き進む那珂を先頭に、味方艦隊が前へ突撃する。
対空射撃で打ち落とすも、焼け石に水。雨と見まがう爆撃。
最早、形振り構わぬ。集中しすぎて脳が爆ぜそうだ。掠り艦装が壊れて、緊張が心臓を蝕む。
那珂を庇うように白露が大破した。続いて、姉を守り海風が大破。後ろは振り返らず。唯一の軽巡として彼女は進む。
大破した二人を守りながら、涼風と五月雨は必死に戦う。
速く。もっと前へ。砲撃、雷撃の届く所へ。
足掻き煤塗れになりながらも止まらず。仲間は堕ちぬと信頼した姿を見て。
『…美シイ』
眩しそうに目を細めながら、彼女は待つ。
ついに撃ち出された魚雷と砲撃を受け入れて、北方棲姫が轟沈した。