一瞬だけど、提督の表情が歪んだ。かなり驚いたんだと思う。
変な流れに乗っちゃった。今更訂正は出来ない。我ながららしくない。へらへらと笑うのが自分らしさ。
そう思ってたのに。悪い気分じゃないんだ。
ああなんだ。やっぱりもったいないと思ってたんだ。
こんな機会は二度とない。そうだ。提督の反応で、これからの付き合いを考えれば良い。それだけでしょ。
「はむ」提督が食べてくれた。
ど、どうだろう。作ったのは私じゃないけど、変だったりしないかな。
……もきゅもきゅと食べてる。穏やかな雰囲気。
表情は変わらないけど、美味しそうにしてる気がする。
なんだろうこの気持ち。緊張とか状況のおかしさを抜かせば、ちょっと面白い。
じゃあ次は響と同じこと。今度は私が。ああ。本当にどうかしてる。
でもやっぱり面白いなあ。
口を開けて提督のを待つ。あ、口内を見られるかな。だ、大丈夫だよね。
「あーん」
特に躊躇いもなく。提督がからあげをくれた。
さくっとした衣の食感。肉汁があふれて口内を幸せで満たし、ジューシーな鳥肉がとってもおいしい。
いつもより、胸が温まるのは気のせいじゃない。なんでだろ。
大して話もしてないのに、なんで私は、こんな変な流れで提督と触れ合って、嬉しくなってるんだ。恩はある。それこそ返せない位、私たちは彼に恩がある。
この人が、部屋に篭もりきりで仕事を片付けてくれたのは知ってる。
最前線への引き継ぎ。この鎮守府の効率化。どちらも失敗は許されない。
二つの仕事を迅速に、前線への補給が今度こそ乱れないようにと、一切の妥協はなく。
感謝はしてる。疲れで私たちに甘えてくれたら、逆に嬉しい位だけど。
『川内。俺の眠りを守ってくれるか?』
う、ううん。想像してみたけど、絶対に言わないでしょ。
弱さを見られる気がしない。鋼の様な意志力こそ、提督の強みだ。
軍神。人間でただ一人、深海棲艦を相手に、艦娘が到着するまで持ちこたえた人。相手は駆逐艦一隻で、尚且つ小破していたとは言っても、絶望的な状況だった筈。
彼の姿を見れば嘘ではない事はよく分かる。
人間の目をしてない。きっと。自分の弱さは許せなかったんだ。
でも、なんでだろ。提督は多分本当に強い人で、神とまで語られる人なのに。
そうじゃない。そうなってしまってるだけだ。って、響の目が言ってる。
だってそうだ。とても優しい瞳で、彼女は提督を見てるんだ。
だとしたら、提督にも責任があるよ。甘えたら駄目なの?
「司令官」
「む?」
そうそう。いま響がしているように、頭を撫でてなんて甘えられたら…って、ええ!?