いちゃいちゃ大好き提督日常   作:ぶちぶち

321 / 322
正直な心で止まらないです

 極限を超えた集中。あまりのストレスに鼻孔から血が零れた。脳が軋む。艦娘全員が、とてつもない世界へ意識を飛ばした。

 空から世界を見下ろしているようだ。肌そのものが景色を知覚している。

 普段は閉じられている感覚。

 

 膨大な情報量に脳みそが爆ぜそうだ。限界の向こう側に半歩踏み込んでいる。命が削られていく。死ぬ?

 その痛みをいつかの修練が超えさせる。

 その苦しみをかつての後悔が耐えさせる。

 

 尚も簡単には超えられない状況である。

 とんでもない量の砲弾が、爆撃が、魚雷が迫ってくる。見えるからこそ分かる。分かるからこそ認識する。

 

 地獄。針の穴一つない。全身全霊で殺しにかかってきている。

 皆、記憶が走馬燈として流れて、その中で川内が思い出したように笑った。

(あ~あ。やっぱり提督に抱いてもらえば良かったかな)

 夜を思い出す。この世界に生まれてから、一番嬉しくて傷ついた夜を、彼女は生涯忘れない。

 

 とても素敵な時間だった。何度やり直そうと、きっと川内は同じようにする。

 そう。なによりあの場面で、私を抱く提督は許せない。

 なのに抱いてほしかったと願う。矛盾した想い。でもそれが正直な気持ち。

 

 抱きしめたい。触れ合いたい。今でも強く願っている。

 そうだ。それが正直な心なんだ。

 やりたいようにやる。わがままだけど。

 それが己だと、川内の在り方なのだと思っている。

 

(ハーレムでも良いよね! なんて)

 また思い出したように笑った。望む心があるだけで、この地獄が苦に思えなかった。

(我ながら未練ありすぎでしょ。でも、それでも)

 帰りたい。帰って、あの二人の幸せを見たい。

 

 提督が望んでいないなら、響が許してくれないなら。この心は奥底に秘めるけど。

 それでも私は、二人が好きで、なによりあの人を愛しているのだから。

 永遠にも感じる絶望の時間。一度だけ、一瞬だけ目を瞑った。

(…ああ。くる。ようやく、ようやく)

 ――夜がくる!!

 

 極限の集中を超えて、時が止まった。それはまさしく闇夜の如く。音一つない。川内が愛する至高の時間。相手の砲撃のラインが見える。最適解を魂で実感する。

 川内に引っ張られて、他の者達も流麗に動き命を繋ぐ。反撃。

 一片の無駄もない砲撃が、雷撃が、吸い込まれるようにレ級へと叩き込まれ。

 一隻轟沈。

 

 ようやく一隻沈めた。残りは一。だがすでに満身創痍。相手はニタニタと不快な笑みを浮かべている。

 沸き立つ血潮。止まらない。

 鋭い眼光に見据えられ、初めてレ級に動揺が見られた。

 

『ソンナニボロボロで、ナゼ?』

 艦娘の本能か。それだけでここまで頑張れるのか。違う。

 あくまでも日常に戻りたいからこそ。ああそうだ。いちゃつく日常なんて夢見ているから。

「…きっと分からないよ」

 川内の優しい苦笑と共に放たれた砲弾が、戦場の終わりを告げた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。