極限を超えた集中。あまりのストレスに鼻孔から血が零れた。脳が軋む。艦娘全員が、とてつもない世界へ意識を飛ばした。
空から世界を見下ろしているようだ。肌そのものが景色を知覚している。
普段は閉じられている感覚。
膨大な情報量に脳みそが爆ぜそうだ。限界の向こう側に半歩踏み込んでいる。命が削られていく。死ぬ?
その痛みをいつかの修練が超えさせる。
その苦しみをかつての後悔が耐えさせる。
尚も簡単には超えられない状況である。
とんでもない量の砲弾が、爆撃が、魚雷が迫ってくる。見えるからこそ分かる。分かるからこそ認識する。
地獄。針の穴一つない。全身全霊で殺しにかかってきている。
皆、記憶が走馬燈として流れて、その中で川内が思い出したように笑った。
(あ~あ。やっぱり提督に抱いてもらえば良かったかな)
夜を思い出す。この世界に生まれてから、一番嬉しくて傷ついた夜を、彼女は生涯忘れない。
とても素敵な時間だった。何度やり直そうと、きっと川内は同じようにする。
そう。なによりあの場面で、私を抱く提督は許せない。
なのに抱いてほしかったと願う。矛盾した想い。でもそれが正直な気持ち。
抱きしめたい。触れ合いたい。今でも強く願っている。
そうだ。それが正直な心なんだ。
やりたいようにやる。わがままだけど。
それが己だと、川内の在り方なのだと思っている。
(ハーレムでも良いよね! なんて)
また思い出したように笑った。望む心があるだけで、この地獄が苦に思えなかった。
(我ながら未練ありすぎでしょ。でも、それでも)
帰りたい。帰って、あの二人の幸せを見たい。
提督が望んでいないなら、響が許してくれないなら。この心は奥底に秘めるけど。
それでも私は、二人が好きで、なによりあの人を愛しているのだから。
永遠にも感じる絶望の時間。一度だけ、一瞬だけ目を瞑った。
(…ああ。くる。ようやく、ようやく)
――夜がくる!!
極限の集中を超えて、時が止まった。それはまさしく闇夜の如く。音一つない。川内が愛する至高の時間。相手の砲撃のラインが見える。最適解を魂で実感する。
川内に引っ張られて、他の者達も流麗に動き命を繋ぐ。反撃。
一片の無駄もない砲撃が、雷撃が、吸い込まれるようにレ級へと叩き込まれ。
一隻轟沈。
ようやく一隻沈めた。残りは一。だがすでに満身創痍。相手はニタニタと不快な笑みを浮かべている。
沸き立つ血潮。止まらない。
鋭い眼光に見据えられ、初めてレ級に動揺が見られた。
『ソンナニボロボロで、ナゼ?』
艦娘の本能か。それだけでここまで頑張れるのか。違う。
あくまでも日常に戻りたいからこそ。ああそうだ。いちゃつく日常なんて夢見ているから。
「…きっと分からないよ」
川内の優しい苦笑と共に放たれた砲弾が、戦場の終わりを告げた。