待て待て待って! いや、どうしたのさ! これ以上の混乱はないと思ってたのに、易々と越えてきた!
「んっ」
響が幸せそうに手を受け入れてる。本当に優しい手つきで、提督は撫でてる。
髪をあじわうような。なんかちょっとえっちな。
響も仄かに赤面してる。嬉しそう。恍惚。と言うべきかな。
愛おしさを互いに感じていて、心から信頼し合ってる。
それは良い。いや、良くはないけど。動揺が半端ないけど。
なんでいきなり、いちゃつき始めてるんだ。食べさせ合いもだけど、提督じゃなかったら、ただのバカップルにしか見えない。
えっ? この流れも私はやるの?
ちょ、ちょっとそれは…響と目が合う。彼女の透明な眼が言ってる。
『川内さんも』
そっか。そうだね。うん。なぜだか分からないけど。
いやもうほんっとうに! 分からないけど!
でも提督は私たちに近づこうとしてる。そうじゃなかったら食堂には来ない。
分かった。覚悟は出来た。…まあ、提督には失礼な考え方だけどさ。
いこう。
「提督」
声は震えなかった。響も満足そうに微笑んでる。どんな立ち位置にいるんだろ。良いけど。
「どうした?」
提督の声。落ち着いてる。この人は何を考えてるのかな。まったく。今日は眠れないかもしれない。
それはいつものことか。私が夜に寝るなんてない。ならいつも通りだ。
「私も…その」
ぴくりと、彼の眉が揺れた。あれ~間違えた? ひょっとしなくても間違えた!?
だ、だめだ。逃げる? いやそれも無理。無理よ。軍神と不死鳥を相手に逃走なんて出来ない!!
なら立ち向かうしか――そっと、私の頭を撫でる手。
「ん」
思わず声がもれるほど、とっても優しい手のひら。
ごつごつと武骨な手なのに。いや、だからかな。私を大切に撫でてくれてる。
わ~!! もう限界!! どうして、どうして!! って、大きく叫ぶ心があるのに。
止めてと言えない位、提督の手は優しさに満ちていた。汗とか大丈夫かな。いや。気にしないよね。
落ち着く。うん。成程ねえ。響がうながした理由は分かったけど。どのタイミングで止めよう? そうこうしてる内に、手つきが変わる。
柔らかく髪を梳かすよう。手櫛をしてくれる。気持ち良い。
彼の掌から、熱い感情が伝わる。くすぐったくて心地良い。
分からない。どうして、こうまで愛されてるのか分からない。
性欲? それだけで、大切に触れられるのかな。
男の人の衝動は分からないし、経験はない。そういうモノなのかも。
でも、何でだろう。提督が今にも泣き出しそうな。そんな悲哀も感じるんだ。