いちゃいちゃ大好き提督日常   作:ぶちぶち

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考えすぎです

「て、提督っ、もう大丈夫ですよ!」

 心は全然大丈夫じゃないけどさ。響の視線も感じる。止め時かな。

「そうか」

 平然と手を離して、落ち着いた姿で佇んでる。まったく動揺してない。

 

 なんかずるい。

 嬉しいと思ってたのは私だけ? 提督は、望まれたから動いただけ? 

 知りたい。ほら、思ったじゃない。勇気を出すんだ。提督と響みたいに。 

「…提督はさ」

 

「うん?」

 どこか優しい返答。気のせいじゃなければ、僅かに微笑んでくれてる。

「やりたい事をしてます?」

 

 ああ。聞いてしまった。でもしょうがないでしょ。なんだろう。運命の輪が動き出した、なんて言えば大げさか。流れが変わった。とも違う。

 ただそう。こうしたいと思ったから。

「質問の意図が分からん」

 

 幸いにも怒りはない。拒絶もされてないと思う。むしろ穏やかな声だった。

 慣れない敬語だけど、丁寧に聞こう。

「その、この鎮守府に着任してからずっと働き続けて、食堂に来たのも初めてですよね」

 

 簡単に食べれるおにぎりなんかを、好んで食べてたみたいだけど。

 激務。最前線と比べれば、と提督なら言うのかな。

 一度だけ、夜戦帰りに執務室を覗いた事がある。出発する時も起きてたのに、帰ってきた時も灯がついてて。邪魔しないようにそっと覗いたら。

 

 もくもくと仕事を片付ける姿。ぶれず。ただただ業務を片付ける顔。

 恐ろしい速度で書類を処理してる。迷いはなく。とてつもない練度を感じた。

 私たちとは違う。楽しみがない。笑顔がないんだ。

「後方に回されて、軍神と謳われたのに戦場から離されて」

 

 どんな気持ちだったかは知らない。でも、提督の適正が神に至れるほど高く。彼が戦場で指揮を執るだけで、そこにいる者達の士気が最高潮に達するのは事実。

 実際、この鎮守府の資材回収も跳ね上がっている。

 結果として前線も安定して、今彼が戻ったら尚良いと思う。

 

 戦局を左右する程の存在。だからこそ、死なれては困るのは分かるけど。

「飼い殺し、じゃないですか」

 安全な後方での勤務。夜戦すら滅多にない。

 

 夜空は綺麗だけどね。夜海は美しいけど。灼ける様な高揚がないのも事実。平和は尊い。前線で、犠牲になり続ける人達を意識しなければ。

 …うーん。これも私らしくないかな。妙に心が荒んでる。

 

 私たちも義務はある。それに此処は、駆逐艦たちを鍛える用途もある。

 変に前線へ気を遣って、平和の尊さを侮辱したくない。

 それで日常を楽しまないのは、最低な行為だと思う。でも提督はどう思うんだろう。


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