俺もがんばったんだ。
たとえばそう。三日前に廊下ですれ違った夕立相手に。
『おはよう』
『お、お、おは、おはようございますでした!!』
と言って彼女は逃げ去った。俺は泣いた。
何かしただろうか。ただ俺は彼女の愛らしい声で。
『良い朝っぽい! 提督さん、おはようございます!』
みたいなのが欲しかっただけなんだ。ひどい。
そうそう。白露型つながりで、二日前は時雨に挨拶をしたんだ。
『良い朝だな』
『え、は、はい。良い朝ですね…』
今にも消えそうな儚げな声で、彼女は答えてくれた。
逆に申し訳なくて、俺は滑らかに逃走した。俺は泣いた。
そうだ。今度こそ白露型と仲良くなろうと思って、昨日は村雨に言った。
『おはよう』
『はい! おはようございます!!』
お前は誰だ。違うだろう。いや、良いんだけど。真面目で結構だけど。
『うふふ。今日も良い朝ですね。こんな日は外でごはんもいいですね』
みたいな感じで、お姉さんな雰囲気で微笑むもんだろ!!
…分かっている。分かっているんだ。勝手な押しつけはしない。ただね。そう。
俺がいない時は、素の彼女はもっと緩いと知っている。川内から聞いたからな。
仏の顔も三度まで。ちょっと意味合いが変わるけども。
個人的主観として、白露型で一番幼なじみ系正統派な彼女。一番艦・白露にも言った。
『おはよう』
『へぇあ!? あ、その、おはよ! って、そうじゃなくて。その、ご、ごめんなさ~い!!』
さっきの白露との会話が一番続いたね!! いっちば~ん!! ははははは!!
俺は泣いた。
他の白露型? ――俺は泣いた。基本的に上手くいっていない。
山風に対しては、反応が怖すぎてお互いに無言だった。ただただ目が合った。
俺は泣いた。むしろ彼女も泣きそうだった気がする。
というか、まともに挨拶出来たのがさっきの四人だけ。
他の皆は見るからに怯えていた。緊張して固くなっていたり。ドジを恐れて、俺に近寄って欲しくなかったり。
恐怖だけではなかろうよ。でも絶対に、恐怖もあるんだろうなあ。
「はあ」
溜息が零れた。先行きが長すぎる。困った。
近くに響がいないのもある。自覚はあるが俺は彼女に依存している。
一人でも、心のままに生きるんだ。うんうん。
さあて。このままでは何も変わらない。
どんな窮地も破れるはずだ。破れなかったら死ぬだけとか言わない。
努力をしよう。せめても力を尽くそう。――良い匂いのする女の子に触れたいから!
そう。なんていうかさ。いやね。仕方ないとは思っている。俺が悪い。認めよう。