神妙な面持ちで彼女は言う。
「難しいと思うよ」
「だろうな」
真理ここに至るかと言った具合。挨拶しただけで逃げられる。
冷静に考えれば、何ほど俺が怖いのだ。
いや怖いけども。自覚はある。纏うオーラがヤバいからな。ドヤ顔ものである。わけが分からん。
「ん~、私はまあ。もう色々と認識が壊れて、ぶっ飛んじゃったけど」
これも失礼な言い草だ。でも滅茶苦茶嬉しい。まともに会話出来る子が増えるのは、とっても嬉しい。
しかも白露は一番艦だからな。いっちば~ん! だから。うむ。自分でも意味不明だ。
いやしかし、先程の挨拶で一番通じたのは彼女だ。こうなるのも必然だったのだ。
「他の皆はね。やっぱり怖がってる」
改めて言葉にされると心が折れそうだ。もう少し加減してくれないか。駄目か。そうだろう。
で、彼女の顔も真剣なのである。冗談だったりは絶対にしない。心苦しそうではあるけど、本音なのだ。うむうむ。
…まだだ。まだ折れないぞ。オリハルコンで出来ているから、大丈夫だ。泣きそう。
「手を打つ必要があるか」
俺も応じて真剣な表情で言ってみた。彼女がぴくりと眉を動かしてから。
「酷いことは」
真面目口調でそんな事を言われると、俺の心が折れるので勘弁してください。
お、怒ったぞ。ちょっと威圧してやるからな。へへ~ん。認識が壊れたと言っても、まだまだ怖かろうよ!
「すると思うのか」
「ご、ごめん」
涙目。ぷるぷると震えている。わ~はっはっは! はあ。やっぱり怖いんだ。吹っ飛んでないじゃん。吹っ飛んでないじゃん! いや、分かってたけど。知っていたから、俺は歴戦の人間ですし。読みは鋭い方ですし。
拗ねてないぞ。決して拗ねてない。もっといじめようとか思ってない。
「いや許さない」
「えっと、その」
本当に泣き出しそうだった。もうちょっと見たいけども、ガチ泣きは嫌だ。からかいの範囲が素敵だよな。
「許して欲しければ、俺ともっと話をしてくれ。皆の日常が知りたい」
これは本音である。敵を知り己を知ればなんとやら。己の弱さは十二分に知っている。相手の事を知ったなら、良い感じにいければ良いなあと、漠然と思っている。
多分いかない。また俺は涙に濡れるだろう。
「…顔怖いから、冗談に聞こえないんだけど」
くちびるを尖らせて拗ねていた。ちゅーしたい。
ぷるぷるで柔らかそうなくちびるだ。
いやむしろ、そのくちびるを人差し指でつんつんしたい。キスとは違って、もっとこうからかう感じで。
『え、えっち!』
と彼女に怒られたいんだ。ガチで言ったら、泣かれそうなので止めておく。
「泣くぞ。良いのか、泣きわめくぞ」
「意味が分からなくて怖いから!」
怒られてしまった。呆れながらも、白露らしい明るい笑顔で言ってくれるんだ。
「もう。しょうがないな。あたしがいっちばん詳しくお話をしてあげる」
どちらかと言えば、詳しくよりいやらしく。はい。黙ってます。