よし。まずここで退け。俺の凶相で踏み込んだら、確実に彼女は引いてしまう。
押さば引け、引かば押せ。これぞかけひきの妙。歴戦の強者だけが得られる、言語化できない超常の感性!!
「乙女がみだりに触れあいを許すべきじゃない」
「やらしいんだあ」
ありがとうございます! ありがとうございます!
もうね。赤面しながらのね。や、ら、し、い。この四文字がね。
ええその通りですとも。俺はスケベだよ!
なるだけ傷つけないようにと、性的なのは避けようと思っているけど、まだ親愛の情的な言い訳が可能な範囲で、触れようと思っているけど。
俺はどスケベだよ!! 何度響のパンツにお世話して貰った事か。千に至る程だ。
「そんなんじゃないよ。してもらった事ないの?」
このね。分かる? 分かれ。むしろ分かれ。してもらった…ああ、良いねえ。
ふう。落ち着け。まだだ。まだ喜びに浸るのは早すぎる。
「生憎だが経験はない」
俺は童貞だ。仕方ないだろう。転生してから此処まで、空気感がヤバかったのだ。
真面目な話、響とそういう空気になった経験がある。――全て共依存になりそうだったがね。彼女の魂の輝きと引き替えにして、快楽なんぞいるものか。
でも今更、深くいちゃつくのも変だなあ。とも思っているし。ううむ。
「よっし。それならあたしが一番だね」
白露が対面のソファーに座った。俺は紳士なのでパンツを覗かない。紳士なので。
見え、見え、見えない…などと思っていない。俺は紳士なので。
白露の魅力はパンツじゃない。男としての性欲あれど、深い情欲はない。駄目だ。
俺は彼女のなじみ空気が好きなのだ。愛おしい明るい魂。良い。
「おいで」
にこりと優しい笑みを浮かべて、白露が俺を待っていた。
うひょひょ。落ち着け。まてまて。策略通りであろうとも。
警戒せよ。集中せよ。罠ではないか――罠でも良いか。
完全なる決着である。白露の心理を読み切って、俺はヴァルハラへと至らん。
「良いのか?」
「そんなに躊躇うほど嫌なら、止めるけど」
つーんと冷たい反応だった。ここでへたれるな。受け入れるのだ。
天国は目の前にあるのだ。受け入れろ。臆病からの脱却を図れ!
「嫌じゃない」
「むう。生意気」
仄かに怒った眼で見られている。可愛い。
言葉が悪かったな。でも感動の侭に告げたら、おそらく泣くのではなかろうか。
「とても、とても嬉しいよ。ありがとう」
「よろしい!」
朗らかに笑う彼女の姿が、眩しいほど愛らしく。期待感を隠しつつ動いた。